2. 口づける



山本の部屋は二階。何度も来ているけれど、やっぱり人の家は緊張する。それが恋人の部屋ならなおさら。

「今、服用意すっからな」

「え、い、いーよ!ご飯もらったらすぐ帰るし!」

「なに言ってんだよ、そんな濡れたままだったら風邪引くだろ?」

「でも・・、」



「ツナはさ、遠慮しすぎなんだって。もっと甘えていーんだぞ?俺ら付き合ってんだし」



面と向かってそう言われるとものすごく照れる。ツナはすぐに俯いて小さく頷いた。

それを見て、ふ、と笑ったあと、山本はタンスに手をかける。そこから適当に二枚の服を引っ張り出した。一枚は自分の分で、もう一枚は小さな恋人の分。

「ん、ツナ」

「ありがとう・・」

それを受け取って、制服のセーターに手をかけたところで、ツナは突然手を止めた。

「?着替えねーの?」

山本はすでにセーターを脱いだあとで、制服のシャツのボタンに手をかけたところだった。

「・・う、うしろ向いててっ」

「うしろ?」

「は、恥ずかしいから!」

「なにそれ。体育んときはそんなん一言も言わねーじゃん」

「・・体育のときと、今は、ち、違うの!」

「はーい」

ツナにそう言われては仕方がないので、山本はくるりと背を向けた。

ツナの着替えているところを見られないのは正直残念だと思ったが、それだけ自分のことを意識してくれているんだろうと思うと、少し顔が緩んでしまった。





「ツナー、着替えたー?」

言われたとおりツナに背を向けたまま、着替え終わった山本はそう尋ねる。

「う、うん・・。着替えたんだけどさ、」

ツナが言い終わる前に山本は振り向く。

「はは。ツナ、ワンピースみてぇ」

これが20センチの差なのか、山本が渡したパーカは、ツナの小さな身体をすっぽり包んでいた。

「ぅ・・、お、俺だって好きでこうなったわけじゃないんだから!」

「ごめんごめん」

指の先まですっぽりその中に収まってしまったツナの右腕を取る。それからなにも言わずに山本は、袖を丁寧に捲くってやった。

「ツナは小さいのな」

自分の服を着せてみて、改めて感じるツナのサイズ。よく言う、『彼女に自分のYシャツを着せるとときめく』というのは、どうやら本当らしい。

「や、山本が大きいだけだろ!」

む、と口を尖らせた彼の右手がようやく顔を出した。次は左手。

「・・・てゆーか、」

「ん?」

「下は、貸してもらえないの・・?」

「下?」

着せたパーカが大きすぎて気づかなかったが、そういえば下に履くものを渡すのを忘れていた。

「あぁ・・、いいんじゃね?それで。かわいーし」

「や、やだよ!」

なんか、スースーするし・・・、と言うツナは、やっぱり男の子なので落ち着かないらしい。

「そっかー?じゃ、ジャージでい?ジーパンじゃでかすぎるだろ?」

「う、うん。なんでもいい」

それから左手を解放してやったあと、タンスからジャージのズボンを引っ張り出した。



上を着ていてもやっぱり恥ずかしいらしく、またうしろを向いてと言われた。そして案の定、今度は裾が余って、まるで女の子が履いているようなルーズソックスみたいな状態になっていた。

そのままでもかわいかったが、ツナがそれにつまづいてこけたりしたら困るので、今度はしゃがんでまた丁寧に捲くってやる。

「い、いいよ!それくらい自分でやれるから!」

「いーからいーから」

どうやら俺は、ツナをお姫様のように扱ってしまうらしい。

「・・・山本、変だよ」

「なにが?」

「だって・・、たぶん、普通はこんなことまでしないよ?」

いくら経験値のないツナだってわかる。普通、恋人同士だからって、ここまで世話を焼く人なんてそうそういない。

「俺はするし」

ツナだけだけど。

「俺が好きでやってんだから、ツナは気にすんなよ」

「・・・・・うん」

「よっし!出来た!メシ食うか!腹減ったろ?」

「うん、・・ありがとう」

改めて見ると、自分の服を着ているツナは違和感があるように見えるが、なんだかとても恋人っぽいのでうれしくなった。

「・・なに笑ってるんだよ」

「かわいーなーと思って」

「・・どーせ俺はチビですよーだ」

「誰もそんなこと言ってねーじゃん」

はは、と笑って階段を下りた。








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ツナをお姫様扱いしてしまう山本とか萌える。
2007.05.25
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