2. 口づける



剛が用意してくれていた晩ご飯は、やっぱりというかちらし寿司だった。それに、焼き魚と味噌汁。

「わりーな、いっつも寿司ばっかで」

ご飯を食べたあと、山本は苦笑しながら言った。

「ううん、全然!山本のお父さんが作ってくれる寿司、すっごくおいしいから!」

本当に、何度食べても飽きないくらいにおいしい。それをいつでも食べられる山本はうらやましいなぁと、ツナはいつも思っているくらいだ。

「そっか、よかった」

安堵の溜め息をついて、自分の部屋の扉を開けてツナを先に入れてやる。もう陽が落ちるのもだいぶ遅くなってきたが、さすがに7時を回ると部屋の中は薄暗い。

「雨、止んだかなぁ・・?」

カーテンを開けて窓の外を覗く。残念なことに、まだ雨はどしゃ降りに近かった。

「今日は止まねーんじゃねーの?」

もう7時回ったし、と山本はツナのうしろに立って、同じように窓の外を覗く。

「そっかー・・」

「泊まってく?」

「え?」

「制服もまだ乾いてねーし、このまま帰ってまた濡れるのやだろ?」

「だけど、・・いーの?」

「いーよ。・・・・つーか、」

不意に山本の声のトーンが低くなって、笑顔からマジメな顔に変わった。





「帰したくねーし、ツナのこと」





「え・・?」

どきり、とツナの心臓が大きな音を立てる。電気もつけず、薄暗い部屋の中で見る山本の顔は、なんだか妙に大人びている気がする。

「・・・・・・・・・」

「・・やま、も、と・・?」

ドキドキしすぎて息がうまく吸えなくなった。

徐々に近づいてくる山本の顔。それ以上アップで、山本のキレイな顔を見ていられなくなって、ツナはぎゅっと目をつむった。

それからすぐに柔らかいものがツナの唇を塞いだ。



「・・っ」

角度を変えて何度も何度もそれは与えられた。

窓の外はどしゃ降りの雨の音でうるさいくらいなのに、この部屋は静かで、ちゅ、ちゅ、と二人の唇が触れる音だけが大きく響いている。

何度もキスをされたせいかまだそれに慣れていないせいか、山本が唇を離したのと同時に、ツナは溜め息に近いような息を吐いた。

「・・ツナ、」

囁くように名前を呼ばれ顔を上げると、そ、と山本の大きな手がツナの頬を包む。そうしてまたすぐに山本の唇に塞がれる。

今度は口の中に柔らかいなにかが差し込まれた。それはツナの口内をゆっくり犯す。

「・・ん・・っ」

歯列をなぞって、ツナの舌に触れるとそれに絡めた。

「んん・・っ」

熱いそれは柔らかく、そのまま溶けてしまいそうになる。だんだんと呼吸することも困難になってきて、ツナは山本のシャツをぎゅっと掴んだ。

それでツナがもう限界だと感じたのか、山本はようやくツナの唇を解放してやる。頬に添えた手も離すと、ツナは山本の胸に凭れた。

「ツナ・・?」

山本の胸に顔を埋めて肩で息をするツナに、山本は、ふ、と微笑んだあとぽんぽんとツナの頭を撫でる。

別にこのまま、なにもないまま朝を迎えても構わないと思った。ツナの心の準備が出来るまで、ゆっくり待てばいい。正直これ以上我慢するのは辛いけれど、ツナを傷つけるくらいなら我慢した方がマシだ。そう思っていた。





ツナがそんなことを言い出すまでは。





「・・・やま、もと・・・」

「ん?」

「お、俺の、・・・・俺の、ぜんぶ、あげる、から・・・」

「ツナ・・?」

「・・だ、から、」

俯いた顔がゆっくり上がる。







「だから、・・・俺のこと、きらいにならないで・・・?」







上気した頬に潤んだ瞳、さっきまで深い口づけをしていたせいで、唇は妖しく濡れていた。

それがひどく色っぽく見えて、さっきまでの山本の理性は簡単に壊れた。

「・・・全部って、・・意味わかって言ってる・・?」

こくりと頷いたツナは、今にも泣きそうだ。その表情がまた山本を欲情させる。

「・・もう、どーなっても知らねーから」

言い終わるや否や、山本はもう一度ツナの唇を奪う。

深く、激しく。











やっとそれっぽくなったよ!
2007.05.25
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