1. 触れる ツナに告白したのが、三ヶ月前。 玉砕覚悟で告白したら、「俺なんかでいいの・・・?」なんてかわいいことを言ってくれるもんだから、思わずぎゅってしたくなった。でもいきなりそれはないだろうと思って、ありったけの理性で抑えた。 ツナの手に触れたのが、それから三日後。 いざ告白してみると前のようには触れられなくて、それから三日も経ってしまった。俺って意外とヘタレだったのかもしれない。 ツナの唇に触れたのが、それから一週間後。 顔を近づけたら、ぎゅっと目を閉じるもんだから、思わずそのまま全部食べてしまいたくなった。でもツナには嫌われたくなかったから、ちゅ、て軽く触れただけ。 それから一ヶ月、二ヶ月経ったけど、キス以上にはいまだ発展出来ていない。 キスだって、舌を入れたのはここ最近。あれは本気でやばかった。もう死んでもいいかもとか思った。 てゆーか、そのあとのツナのかわいさったらない。続かない呼吸で、でもはにかんだように耳まで赤くして、へら、って笑うもんだから、危うくツナをぐちゃぐちゃのめちゃくちゃにしてやろうかと思ったくらいだ。 そのことをふと思い出して、山本は、ふ、と笑った。 「・・・山本、あんたホントにきもいね・・・」 隣で、周りの女子からは少し大人びた雰囲気を持ったクラスメイトが、怪訝そうな目を向けていた。 「え?あ、俺なんかした?」 授業中だから、少し声のトーンを抑えて山本は言う。 「にや〜って、そりゃもうきもいなんてもんじゃなかったけど」 今は理科室で実験中。山本と花は同じ班だった。 「あー、なんか、色々思い出して」 「思い出し笑いかよ。余計きもいっつーの」 いついかなるときも黄色い声で反応してくれる女子の中で、ただ一人だけ山本を男として見ない彼女。そんな彼女の反応が新鮮で、ちょっとうれしかった。 「・・ところでさ、黒川」 「なによ」 「あー・・のさ、普通って付き合って三ヶ月でどこまで進むの?」 少しだけ言いづらそうに山本は聞いた。視線は目の前で実験をしている同じクラスの生徒に。 「・・・は?」 「いや、一般的にはどこまで進むんかなーと思って」 「・・・もしかして、あんた今まで誰とも付き合ったことないの?」 「あぁ、うん」 「あんだけしょっちゅう告られてるくせに?」 「別に、興味なかったし」 今まで野球しか興味がなかったし、ツナと仲良くなってからはツナだけしか興味がなくなった。俺って結構一途かも。 「てか、なんであたしに聞くの?」 「だって他に聞ける奴いねーし」 野球部の奴らに言ったってただからかわれるだけだし、最近騒がしくなった周りには聞けたもんじゃねーし、特に獄寺とか。たぶん俺地獄送りになるんじゃねぇかな。かといって、付き合ってる相手に聞くのも失礼だし。ツナだったらいい反応返してくれそうだけど。 そんなツナが頭に思い浮かんで、またにやけてしまった。それにまた花が嫌そうな顔を返してきたのだが。 「で、どこまで進んだわけ?」 なんだかんだ言ってきちんと聞いてくれる彼女が好きだ。そんなことを本人に言ったら、一生口を利いてもらえそうにないけど。 「キス・・は、した」 「べろちゅー?」 「最近、だけど」 明らかに授業中に話す内容ではない。しかも中学生の、クラスメイトとはいえ男女が。 「ふーん。あんたそれでよく我慢出来てんね」 正常?と言って、少しバカにしたようにくすりと笑う。 「いや、これでも一応すっげー頑張って抑えてるつもりなんだけど」 「まぁ中学生の性欲なんて果てしないからね」 またくすりと笑った黒川に、それでも中学生かよというツッコミはやめておいた。ここで唯一の恋の相談相手を失うのは惜しい。 「・・・今日、さ、体育フォークダンスだったじゃん?」 「なに急に」 「手繋いだんだよな」 「そりゃまぁフォークダンスだからね」 「でもさ、俺より前にいっぱい手繋いでてさ」 「あー、フォークダンスだからね」 突然変な話を始めたからだろうか、飽きてきたのか髪の毛をいじり始めた。 「そー考えたら、なんか嫌んなってきて・・・今まで触ったの俺くらいだったから」 「へぇー、あんたって意外に独占欲強い・・、」 適当に相槌を返していた花の手がぴたりと止まった。 「ちょ、待って・・、」 「ん?」 「今、フォークダンスって言った?」 「言った。」 「手繋いだって言った?」 「言った。」 「・・・あんたの彼女って、このクラスにいんの?今この教室に?」 「あー、うん」 彼女っつーかなんつーか・・、と言葉を濁らせながら、でも照れたように笑った。 「なっ!?ちょ、ぶっちゃけこのクラスにあんたに釣り合うような女、いないでしょ!?」 京子以外に、と続けた黒川に、それって俺のことを男として認めてくれたのだろうかと聞きたかったけれど、それもやめておいた。やっぱり大切な友達を失くすのは惜しい。 「誰!?誰にも言わないから吐け!」 「誰って・・」 言いかけて隣の班だったツナと目が合った。にこりと笑ったら、すぐに顔を赤くして目を逸らされてしまったのだけれど。その反応もかわいかったので、というかツナの存在自体がかわいいので、またしても顔が緩んでしまった。 「・・・・・もしかして、」 花がぼそりと呟く。 「ん?」 「あんたの彼女って、・・・・沢田とかって、言わないよね・・・?」 少しだけ顔が引きつって見えるのは気のせいか。 「すげー、よくわかったなー」 否定するでもなく隠すでもなく、山本はうれしそうに笑った。 「・・・・はあ!!?」 花の大声が教室中に響いた。 「・・・周りに女がい過ぎて男に手出したか・・・」 意外に彼女の反応は冷めていた。 思わず大声を出してしまって怒られたが、それに落ち込む彼女ではない。すぐにそう返した。 「でもさ、ツナかわいくね?」 「・・・どこが」 「どこって、全部。」 真顔でそう返され、花は隣の班のツナを見た。 背が低くて肌が白くて細っこくて、どー見てもただのもやしっ子にしか見えない。ただ、長所を挙げろと言われれば、あのふわふわした色素の薄い髪の毛と、あの年頃の男子特有の中世的な顔立ちか。 「・・・まぁ確かに悪くはないけど、」 「お、認めた?」 「地味じゃね?」 「そうかー?」 二人してツナを見つめていたせいかただの偶然か、ツナが顔を上げる。 また山本がにっこりと笑顔を返してきたが、山本に加え花まで見つめていたので一瞬びっくりしたような顔をしてまたすぐに顔を逸らした。 「ほら、すげーかわいい」 「・・・あんた、一回医者に診てもらった方がいーよ」 「あいつは女子以外診ねーって」 「あの変態オヤジじゃねーよ」 「変態オヤジって」 花の発言に苦笑した山本がまたツナを見た。その表情は本当に愛しい者を見るような瞳で。 「・・・・ま、頑張んな」 「ん?なに?」 「別に」 ぼそりと呟いた花の言葉は山本には届かなかった。 next |
山本と花って組み合わせ、結構好きです。 |
2007.05.20 |