1. 触れる



授業中の賑やかさが嘘のように静かな理科室で、ジャーッと水が流れる音だけが大きく響く。

クラスの人気者と付き合っていても、相変わらずダメツナは実験の後片づけを押し付けられていた。とは言っても、誰も山本とツナが付き合っていることは知らないのだが。

「・・・さっき、黒川となに話してたの?」

試験管を水で洗いながら、ツナは授業中気になっていたことを聞いた。

「んー、ただの世間話」

その隣、椅子に座っていても十分流し台には足りるので、椅子に座ったままツナの手伝いをしてやりながら山本は答える。

「気になる?」

椅子に座っているので、いつもより身長差は逆だ。山本は隣のツナを見上げた。

「・・・うん」

「それって、やきもち、とか?」

「なっ!?そーゆーのじゃないよ!」

「なんだ、違うのか」

ちょっと期待したのに、と少しだけ口を尖らせて洗い終えたビーカーを机の上に置く。

「だ、誰だって気になるよ!二人して俺のこと見てたら!」



「あー、黒川に俺らが付き合ってることバレてさ」



「はっ!!?」

ぐるんと山本を見下ろせば、山本は悪びれる様子もなくいつもの笑みを浮かべて返す。

「言ったの!?」

「いーや。なんかバレた」

ツナの名前とか出してねーのになぁ、と付け加えてまた笑う。

「そんな・・!他の人にもバレたらどーすんだよ!」

「だーいじょーぶだって。黒川はそんな奴じゃねぇよ」

「・・・やけに黒川の肩もつね」

ぎろり、睨んだツナに、山本は一瞬びっくりしたような顔をしたあとにっこりと笑みを返した。

「・・・なんだよ」

「ツナのやきもちって新鮮だなーって」

「・・っ、だからやきもちじゃないってば!」

それでもにこにこと笑っていたら、ついには、ふいっ、と顔をそらされてしまった。



「・・・てか、他の人ってさ、たとえば笹川とかのこと言ってんの?」

「え?」

「笹川にバレんの、嫌?」

「・・そりゃあ・・っ」

「あー、やっぱ笹川には敵わねーなー」

そう言って、とりあえずは山本が引き受けた分の洗い物は終わったので、椅子から立ち上がる。ようやくいつもの身長差に戻った。

「・・怒った・・?」

不安そうな色をした瞳に見つめられ、それ以上はなにも言えなくなった。

一番敵わないのは、ツナなのかもしれない。

ふわり、ツナの柔らかい髪に触れる。





「・・・どーやったらツナのぜんぶ、俺だけになんの?」





「・・やま・・・、」

続けて、そう言いかけた唇に触れた。

「・・・っつってな・・」

唇が離れたのと同時に、山本は呟くようにそう言った。

「わり。今の忘れて?」

「やま・・っ、」

「さーて、いい加減教室帰んなきゃな。HR始まっちまう」

「・・っ」

ツナが口を開く前に山本が洗い終わった実験器具を片付け始めたので、ツナはそれからなにも言うことが出来なかった。











どこらへんが「触れる」なのかとか、うん、ノーコメントで(おい)
2007.05.21
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