8 海



「なーツナ、海行かね?」

山本の誘いは突然だった。









ガタンゴトン、と電車は静かに揺れる。休日だから乗客は、平日のこの時間帯の数より多いが、席を確保出来ないほどでもなかった。

「海になんかあるの?」

隣同士に座って、ツナは山本にそう聞いた。

「んー、別に。なんとなく」

「なにそれ」

くすりと笑って、山本の、そういう、直感で動けるところがうらやましいなぁと、ツナはぼんやり思った。

「そういえば、こうやって山本とどっか遊びに行くのって初めてだね」

「そーだっけ?」

「うん。だって、遊ぶっていったら、だいたいどっちかの家じゃん」

「そっかー。俺らって結構インドアだったのな」

「そうだね」

笑って、山本と一緒ならどこにいても楽しいよ、なんて、恥ずかしいから言わなかったけれど。







それから20分ほどして、ようやく電車は海まで着いた。

駅を出て、うーん、と伸びをして息を吸い込んだら、海が近いせいか潮の香りがした。

駅から海までは歩いて行ける距離で、海には夏ほど人は多くなかった。それでも、今日は天気もよく暖かいからか、親子連れやカップルやパラパラと人がいるのが見える。

「海って、小さい頃家族と来た以来だよー」

「俺も」

浜辺で座って海を眺めるのも良かったが、なんとなく天気が良かったので海岸沿いを歩くことにした。

その間、わざわざこんな場所に来て言うほどでもない他愛のない話をたくさんした。



「なー、ツナ」

「なに?」

「四つ葉のクローバーって知ってる?」

「へ?」

「四つ葉のクローバー、知ってる?」

「・・も、もういーよ。それは」

「じゃなくて、」

そう言われ、山本の方へ視線を移せば、山本は地面に向かって指を差していた。

「あ」

そこにあったのは、緑の中に白い花が咲く、



「シロツメクサ・・」



「探してみる?」

「え、」

「どっちが早く四つ葉のクローバー見つけられるか」

にやり、山本は笑った。

「・・えー!」

四つ葉のクローバー探しが始まった。








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二話で終わらせるつもりだったのに・・・
2007.05.15
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