8 海 山本が提案した四つ葉のクローバー探しは、思いのほか難航した。足元に広がる緑は、どれもこれも三つ葉で葉っぱが四枚もあるものなど一本もない。 「案外見つかんねーもんだなー」 少し離れた場所で山本がそう言った。 「そうだね」 笑って目の前の緑を一通り視界に入れる。案の定三つ葉ばかりだ。 あのとき山本が四つ葉のクローバーを見つけたから、今度は自分が見つけたい。ツナはそう心の中でこっそり思っていた。 ザーッザーッと、遠くの方で寄せては返す波の音が聞こえる。少しの沈黙のあと、不意に山本が口を開いた。 「・・・あん時さ、」 「?」 「・・公園に行かなかったとき、俺すっげー後悔したんだ」 「え・・?」 ツナは思わず山本の方を見たけれど、山本は視線を手元に落としたまま話し始めた。 「・・・あん時、少年野球のレギュラーに選ばれてさ、・・学校よりなにより野球が好きだったから、それがすっげーうれしくてどうしても次の試合でいいプレーがしたくて、・・・・それどころじゃなかった」 「・・・・・・・」 急にそんなことを話し出した山本に、ツナは無言のままそれを聞いた。 「けど、今さらこんなこと言うのは言い訳にしか聞こえねーかもしんないけど、・・・俺、ツナのこと忘れたことなんか、一度もなかったよ」 「・・・・・・・」 「・・・久しぶりに公園に行ってツナがいなかったとき、俺のせいだと思った」 「・・・・・・・」 「・・俺がツナを傷つけて、それで来なくなったんだって、・・・すっげー後悔した」 遠くの方で波の音と、子どもの笑い声が聞こえる。山本の声だけがやけに大きく聞こえて、なんだか胸の奥が詰まった。 「・・・ごめんな?ツナ」 やっと顔を上げた山本と目が合う。 別に気にしてないよ、って、なに昔の話言ってんだよ、って、笑って言いたかったのに、胸の奥がぎゅうっと痛くなってなにも言えなかった。 「・・やま、・・」 「お!」 突然大声を上げた山本は、手元にあった一本の緑を引きちぎる。 「四つ葉のクローバーみっけ」 にっ、と笑ってそれを見せる。 「あ・・・」 「・・これ、ツナにやるよ」 「え・・」 「俺とともだちのしるし、な?」 そっとそれをツナに渡す。 「・・なんてな。この歳でやるとなんか恥ずかしいな」 照れたように笑って頭を掻いた。 「・・・・るい」 「ん?」 「ずるいよ、・・そんな、急に・・・」 ぽたぽたと落ちた涙が、足元の緑を濡らす。 「ツナ・・?」 「・・急にあのときの話するとか、謝るのとか、・・・これも、・・ずるい・・っ」 そりゃあ、山本が公園に来なかったときは、すごく悲しかったけれど。 今このタイミングでそれを言うとか、ごめんって謝るとか、そもそもそんなことを覚えてくれてることとか。 あのときと同じように、見つけた四つ葉のクローバーをくれるとか。 ぜんぶ、 全部ぜんぶ、 「・・ずるいよ・・っ」 「ツナ・・」 「ずるい・・っ」 波の音とツナの泣き声が混ざって聞こえる。 「・・なんか俺、ツナのこと泣かしてばっかだな」 困ったように苦笑して、山本はツナの頭をぽんぽんと撫でた。 それから山本は、ツナが泣きやむまで優しく頭を撫でていた。 |
ツナを慰める山本とか好きです。 |
2007.05.18 |