4 ひとりぼっち



「あらあらツッくん、びしょ濡れじゃない」

玄関で一番先に出迎えてくれたのは母である奈々だった。

「傘は?持って行ってたでしょう?」

「あ、あぁ・・・、盗まれちゃってて・・・」

「もう。タオル持ってくるからちょっと待ってるのよ」

「うん・・・」

そう言って奈々は洗面所へ向かった。

雨が降っていてよかったと思う。雨のおかげで泣いていたことがバレないだろうから。



「ツナくん、どうしたの!?」



一足早く家へ帰っていたのだろう、リビングから出てきた京子がツナの姿を見て驚いた声を上げた。

「ツッくん、傘盗まれたんですって」

洗面所から戻って来た奈々が、はいタオル、と持って来たタオルをツナに渡すとツナの代わりにそう答えた。

「そうなの?」

「あぁ・・、うん・・・」

「・・そっか、一緒に帰ればよかったね」

きっと彼女にはバレたかもしれない。双子だからか、彼女には嘘をついても一度も騙せたことがないから。

「お湯沸かしたから、お風呂入ってきなさい」

「うん・・、そうする・・・」

表情を読まれるのが恐くて、一度も京子の顔も奈々の顔も見られずに、ツナは足早に洗面所へ向かった。















次の日、当然というかやっぱりというか、ツナは熱を出した。

「今日は休みなさい」

「・・・うん」

体温計を見てそう言ったあと、奈々はツナのオデコに手を当てた。冷え性だからかひんやりとした手が気持ちいい。

「氷枕持ってくるから。朝ごはんは?食べれる?」

「うん、ちょっとだけなら・・・」

「そう。じゃあヨーグルトかなにか、冷たいもの持って来るわね」

そう言ったあと奈々は静かに部屋を出て行く。

父と兄がまたくだらないことで言い合っているのか、一階は少しだけ騒がしい。それが遠くの方で聞こえるくらいで、ツナの部屋は隔離されたように静かだった。昨日から続く雨の音が大きく響く。

正直、熱が出て助かったと思った。

学校には行きたくなかった。というより、山本に会いたくなかった。

昨日ひどいことを言ってしまったから。どう声をかけたらいいのかわからないし、顔を合わせづらい。

謝ればいいんだろうけど、どうやって謝ればいいのかわからない。友達なんていなかったから、ケンカする相手もいなかったし謝り方もわからない。




・・・山本、怒ってるかな・・・。




力の入らない身体で、ごろん、と寝返りを打った。

いっそのこと、もう、俺のことなんか忘れてくれればいい。あんなひどいことを言ってしまった俺のことなんか。

ぐすっと鼻をすすったあと、すぐにツナは意識を手放した。








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2007.04.19
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