小学校4年生になった頃、たけしくんはぱったり公園に来なくなった。

来なくなって3日は、風邪でも引いたのかなって思った。

来なくなって一週間になると、風邪じゃなくてなにか悪い病気にでもなったのかなって心配になった。

来なくなって二週間経つと、だんだん不安になってきた。

来なくなって一ヶ月、



他に大切なともだちが出来たんだと思った。



晴れの日も雨の日も、たけしくんが来るのをずっと待っていたけれど、来なかった。

朝早くに行っても夕方遅くまでいても、たけしくんは来なかった。

笑顔で「つな!」って呼んでくれる声は、どこからも聞こえてこなかった。

きっと俺より大切なともだちが出来たんだね。

そう思って俺はもうその公園には行かなくなった。たけしくんのいない公園はつまらないから。

そのとき初めて、"さみしい"という気持ちを覚えた。






それからまたたけしくんとともだちになった。たけしくんは覚えてないけど。

でもいいんだ。あの頃と同じ笑顔で、「ツナ!」って呼んでくれるから。

でもどうしてなんだろう。

たけしくんが笑顔で「ツナ!」って呼んでくれるたびに、うれしいのと同じくらいに不安になってしまうのは。
















4 ひとりぼっち















「山本、先帰っちゃったかな」

雨の音だけが静かに響く廊下で、ツナはぼそりと呟いた。

今日はめずらしく補習がなかった。野球部の部活も朝から続く雨のせいか休みだったから、ホームルームが終わったらすぐに一緒に帰るはずだった。しかしあいにく今日が日直だったツナは日誌を届けるために職員室に行っていた。

「もー、日誌届けに行っただけなのになんで怒られなきゃなんないんだよ」

ぶつぶつと文句を垂れながら、教室で待っているだろう親友のもとへ急ぐ。

「でも山本に待ってもらうのって初めてだな」

なんかくすぐったいや、と笑いながらなるべく早足で廊下を歩いた。



自分のクラスの教室の前に着くと、中から声が聞こえてきた。

山本・・・・?

そうっと扉の窓から覗くと、同じクラスの生徒数人と山本がなにやら話していた。

一人で待つの、つまらなかったのかな。

そう思った。

生徒数人が楽しそうに話しているからか、なんとなく中に入りづらい。

話終わるまでここで待ってようかな。

そう思ってひと息ついたところだった。



「でもさ、笹川のことは好きなんだろ?」



中でも少し、声が大きい方に入る生徒の声が聞こえてきた。

「笹川?・・ツナ?」

「ちげーって。京子の方!」

また京子ちゃんの話か。山本モテるもんなぁ。いっつも聞かれてるし。

「なんで・・」

「だって最近、やたらとダメツナと仲いーじゃん」

俺と仲いい=京子ちゃんが好き、か。いつからこんな方程式が出来上がっちゃったんだろうなぁ。

半ば他人事のようにそう聞きながら、廊下の窓を流れる雨をぼーっと見つめていた。

「ツナと仲良かったら、なんで笹川が好きってなんの?」

「あいつと仲良くする理由なんてなぁ?笹川目当てぐらいしかねーじゃん?」

ストレートに言われるとやっぱり悲しいなぁ。

でも山本は俺のこと親友って言ってくれたし!

少しだけ期待を込めて山本の次の言葉を待った。

しかし山本から発せられた言葉は、





「・・・そろそろ帰るわ」





否定でも肯定でもない、感情のこもっていないような冷たい言葉。

・・・・否定、してくれなかった。

ツナの心臓が嫌な音を立てた。





否定してくれないことなんて、今まで何度もあったはずなのに。だからたとえ山本からそう言われたとしても、多少は傷つくにしてもまた笑っていられると思った。聞いていないフリも出来ると思った。

だけど俺の口から出た言葉は、



「山本は、・・・俺といて・・・・楽しい?」



なんだこれ。

「俺はすっごく楽しいけど、・・山本は、・・・楽しい?」

なにこの尋問みたいな言葉は。

「・・・・俺も、楽しいよ」

ほら、楽しいって言ってくれてるじゃん。ありがとうって言わなきゃいけないのに、また俺の口は。

「・・嘘は、・・・いいよ」

山本が嘘なんかつくはずなんてないのに。

「・・俺のこと、親友だって言ってくれたの、・・・あれ、嘘なんでしょ?」

やめろって。山本困ってるから。

「いいよ、もう。・・・俺は、山本のこと友達だって、・・親友だって、そう思ってたけど、・・・山本は、違ったんだね・・」

いい加減にしないと山本だって怒るから。

「俺は、・・・俺は、京子ちゃんと仲良くなるための繋ぎなんでしょ?」

違う!違う!本当はこんなことを言いたかったわけじゃ・・・!

「繋ぎじゃねーよ。俺はツナのこと、」

「じゃあなんで否定しなかったの!?」







やめろ!つなよし!







「・・・・ごめん、帰る」

なんてことを。

俺は。

「・・・待っててくれて、ありがとう。・・・・・もう、待ってくれなくていいよ」

だけど俺の口は止まってくれなかった。

「・・・・それと、・・・・・・もう、無理して一緒にいてくれなくていいから」

もう山本の顔すら見ていられなくて、その場から逃げるように走った。





なんてことを。





俺は。





してしまったんだろう。





「はぁはぁはぁ・・っ」





傷つけた。





山本を。





大事な大事なしんゆうを。





「・・ごめ・・っ、やま、もと・・っ」

冷たい雨が身体を打つ。傘を持って帰るのを忘れてしまった。けれどもう、そんなことはどうでもいい。

「・・ごめ、なさ・・っ」

酷いことを言ってしまった。まるで山本を疑う風な。





ひどい。





ひどいひどい。









最低だ。









「・・ぅ、く・・っ、ふぅ・・っ」

ツナの頬を冷たい雨と温かい涙が混ざって流れた。








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君を疑ってるわけじゃないのに。
2007.04.18
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