3 ケンカ 「俺ね、ずっと友達って呼べる人がいなかったから、急に仲良くされると不安になるんだ」 「不安?びっくりとかうれしいとかじゃなくて?」 「うん。ほら、俺京子ちゃんの弟じゃん?だから、京子ちゃんと仲良くなりたいから俺と仲良くするみたいな人ばっかりで・・・」 「あぁ・・・」 「友達じゃないって、直接言われることもあったから・・・」 「ツナ・・・」 「・・あ!なんか暗い話しちゃったね!ごめんね!」 そうか、ツナはいつも不安だったんだ。 仲良くなればなるほど、そのあと友達じゃないと裏切られてしまうのが、恐くて恐くて仕方がなかったんだ。 だから、俺を疑ってしまったことも、あんなことを言ってしまったことも、 「じゃあなんで否定しなかったの!?」 なぁツナ、 あのとき俺がちゃんと否定していれば、 ちゃんと「違う」って言っていれば、 あんな顔で、あんな声で、泣いてしまうこともなかったのか・・・? 今日も朝から雨が降っている。 ぼーっと、山本はツナの席を見つめる。けれどそこにツナの姿はない。 「笹川・・・は、風邪だったな・・・。次、佐藤」 出席をとる担任がぼそりとそれだけ言って、続けてツナの次の生徒の名前を呼んだ。 ・・・・ツナ、休みなんだ・・・。 ふと昨日のことを思い出して不安になった。 もしかして俺のせいだったりするんだろうか。けれど昨日は雨が降っていてそれなりに寒かったし。でも嫌なことがある日はたまにズル休みをするとか言ってたっけ。じゃあやっぱり俺が、 色々な思いが頭の中をぐるぐる回る。 いてもたってもいられなくなって、休み時間、山本はツナの双子の姉である京子のいるクラスを訪れた。 「笹川、いる?」 そう山本が京子を呼べば教室の隅の方から、「やっぱり」とか「うらやましい」とかそんな言葉が聞こえた。それを山本は全部聞かないようにした。 「山本くん、どうしたの?」 あぁやっぱり近くで見るとそっくりだ。 「・・わり。外で、話さね?」 どうにもここは居心地が悪い。自分たちに注がれる好奇な視線がすごく嫌だ。 「あ、うん、いいよ」 どうにか京子を、あまりひと気の少ない階段の踊り場まで連れて来たけれど、やっぱり視線を感じた。これじゃあ逆効果だったかと思ったけれど、もうそんなことはどうでもよかった。 「あのさ、・・・ツナ、風邪って・・・」 言いにくそうにそう言えば、京子はやっぱりという顔でくすりと笑った。 「うん。ツナくんね、昨日びしょ濡れで帰って来たの」 「そ、か。それで・・・」 「でもね、昨日も朝から雨降ってたでしょ?だから傘は持って行ってたはずだったんだけど」 そういえば、昨日も一緒に学校に行ったから覚えている。朝はちゃんと傘を差していた。 「なんか、盗られちゃったみたいって言ってたんだけど、今朝見たらちゃんとツナくんの傘はあったの」 忘れるはずはないんだけどなぁ、と京子は不思議そうな顔をした。 どくん、と山本の心臓が嫌な音を立てる。傘を差すことも忘れるくらい、傷ついていたのだろうか。 「あ、でもね、熱がちょっと出たくらいだから、心配しないで」 あまりにも思いつめたような顔をしていたからだろうか、京子は安心させるようにそう言った。 「あぁ・・・」 「山本くんがお見舞いに来てくれたら、きっとツナくん喜ぶよ」 「・・・・・・・・」 悪い、笹川。俺はツナのお見舞いには行けねーんだ。本当はすごく心配で行ってやりたいけど、でも、それは無理なんだ。 風邪を引いた原因が、たぶん、俺だから。 「・・・そっか、ありがとな」 弟と同じように心配性な彼女だったから笑顔を作って別れたけれど、余計心配させちまったかな。ちょっと顔が引きつっていたような気がするから。 明日、ツナは来るだろうか。来たら謝ろう。それで、嘘なんかついてねぇよって、大事な大事な親友だって、笑顔でそう言ってやろう。 窓を舐める雨を見て、山本はそう心に誓った。 next |
明日会えるかな。 |
2007.04.16 |