3 ケンカ



廊下の窓に雨が当たる音と小さく聞こえる吹奏楽部の音と、いつもより静かな放課後の廊下で、こちらもいつもより静かな山本とツナは無言のまま廊下を歩いていた。

いつもならこの沈黙の時間でさえも心地良いのに、今日はやけに居心地が悪い気がする。

愚痴も吐けないほどに先生に怒られたのだろうか。

「・・・ツ、」

「山本」

そう呼ぶ前にツナが口を開いた。

「ん?」





「山本は、・・・俺といて・・・・楽しい?」





「え・・?」

突然の問いに、どういう意味かよくわからなかった。

「俺はすっごく楽しいけど、・・山本は、・・・楽しい?」

「・・・俺は・・・」

すぐにその答えを言いたかったのに、山本を見上げたツナの瞳がひどく悲しそうに見えて、思わず言いかけた言葉を飲み込んでしまった。

「・・・・俺も、楽しいよ」

ようやく発した言葉がひどく頼りなかったせいか、ツナはますます悲しそうな瞳を向ける。

「・・嘘は、・・・いいよ」

「嘘じゃ、ねーよ?」

どうして突然そんなことを言い出すのか。ツナには一度も嘘をついたことなんてないのに。

「・・俺のこと、親友だって言ってくれたの、・・・あれ、嘘なんでしょ?」

「嘘じゃねーよ。なんで嘘なんか・・・」

なんで嘘なんかつく必要があるんだよ。

「いいよ、もう。・・・俺は、山本のこと友達だって、・・親友だって、そう思ってたけど、・・・山本は、違ったんだね・・」

「・・・言ってる意味が、・・よくわかんねーんだけど」

違うってなんだよ。なんで急に・・・。





「俺は、・・・俺は、京子ちゃんと仲良くなるための繋ぎなんでしょ?」





「・・・・・・・・」

もしかしてツナ、







「あいつと仲良くする理由なんてなぁ?笹川目当てぐらいしかねーじゃん?」







あれを聞いて・・・、

「繋ぎじゃねーよ。俺はツナのこと、」

「じゃあなんで否定しなかったの!?」

言葉を荒げたツナの瞳に、涙が浮かんでいるのが見えた。

「・・・・ごめん、帰る」

山本の手にあった自分の鞄を引っ張った。

「・・・待っててくれて、ありがとう。・・・・・もう、待ってくれなくていいよ」

俯いたツナの声が震えている。でも山本はなにも言うことが出来なかった。









「・・・・それと、」











「・・・・・・もう、無理して一緒にいてくれなくていいから」











声を押し殺したようにそれだけ告げたあと、ツナは逃げるように走って行った。

「・・ツナ・・っ」

がんっ、と重いなにかで頭を殴られたような気がする。

それだけ言うのが精一杯で、山本はツナのあとを追うことも、その場から動くことも出来なかった。








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ケンカってよりなんだろう、これ。
2007.04.15
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