小学校4年生になって、念願だった少年野球のレギュラーに選ばれた。 学校よりもなによりも野球の方が大事になって、あの公園には滅多に行かなくなった。 それでもあの子のことは一度も忘れたことがなかった。だってとても大切なともだちだったから。 学校も休みで少年野球の練習もなくて、なにもすることがなかったその日、久しぶりにあの公園へ行った。無性にあの子に会いたくなった。 けれど、あの子はどこにもいなかった。 心配になってそれから毎日毎日公園に行ったけれど、何度公園に行ってもあの子に会うことはなかった。 あぁそうか、ずっと公園に行かなかったから。 大事な大事なともだちだったのに、自分でそれを壊してしまった。あの子を傷つけてしまった。 大切な大切なあの子を。 俺が。 それ以来ともだちを自分から作ることはしなくなった。 もう失いたくない。傷つけたくない。 それからまた大切なともだちが出来た。 あの頃と同じ、小さくて大切なたった一人のともだち。 もう傷つけたりはしないと、そう心に決めていたはずなのに。 3 ケンカ 「ツナ、まだかなー・・」 窓が雨で濡れている教室で、山本はぼそりと呟いた。 今日は朝から続く雨のため、野球部の部活は休みだった。めずらしくツナも補習もなく、ホームルームが終わったらすぐに一緒に帰るはずだったのだが、あいにく今日が日直だったツナはただ今日誌を届けるために職員室に行っている。 「またうるせー先生に捕まってんのかなー・・」 雨の雫が流れる窓をじっと見つめる。 「・・・迎えに行くか」 待っている時間も好きだったが一刻も早くツナに会いたかったので、そう言って腰を上げようとしたのとほぼ同時に。 「おー、山本はっけん!」 「なんだ、まだ帰ってなかったの?」 同じクラスの生徒数人が教室へ入ってきた。 「あ、あぁ・・」 「なに?彼女待ってるとか?」 正直この団体は苦手だ。適当に流して早くツナを迎えに行こう。 「てかさ、山本って浮いた話聞かねーよな。あんだけモテんのに」 「別に、興味ねーし」 何度か告白はされるけど、好きじゃない子と付き合えるほど暇じゃない。それに今はツナといる方が楽しかったりする。 「えー、それでも男かよー」 「でもさ、笹川のことは好きなんだろ?」 「笹川?・・ツナ?」 「ちげーって。京子の方!」 「なんで・・」 確かに笹川はかわいいとは思うけれど。個人的にはツナの方がかわいいと思う。あぁ、早くツナを迎えに行かねーと。 「だって最近、やたらとダメツナと仲いーじゃん」 「ツナと仲良かったら、なんで笹川が好きってなんの?」 「あいつと仲良くする理由なんてなぁ?笹川目当てぐらいしかねーじゃん?」 おまえらと一緒にしないでほしい。 こーゆー奴がツナを傷つけてるんだと思うと、無性に腹が立ってきた。 「・・・そろそろ帰るわ」 早く、早くツナに会いたい。 いい加減会話をするのも嫌になってきたので、山本はそう言って教室を出ることにした。うしろの方でまだなにか言っているような気がするが、そんなものはもう聞かないようにする。 早くツナを迎えに行かなければ。 教室の扉を開けた瞬間、山本は少しだけ驚いた。 「おっ、ツナ」 すぐ扉の向こうにツナが立っていた。 「・・あ、ごめん。・・待った?」 「いや・・」 「か、帰ろっか?」 「おー」 そのとき見せたツナの笑顔がいつもと少しだけ違っていたことに、どうして俺は気づかなかったんだろう。 next |
山本はやたらとうるさい集団とか苦手そうなイメージです。 |
2007.04.14 |