2 背伸び



それから山本は、ツナの初めての親友になった。

休みの日も一緒に遊ぶようになった。それはもっぱらツナの家が多いのだけれど、親友と一緒ならどこにいても楽しい。

テスト勉強を一緒にするようになった。勉強もテストも嫌いだったけれど、親友と一緒なら大嫌いな時間も大好きな時間に変わる。

授業を一度だけ無断で一緒にサボった。あとで先生に大目玉をくらったのだけれど、親友と一緒ならそのあとの補習だってつらくはない。

友達というものが、親友というものが一体どんなものなのか、ツナにはまったくもってわからなかったのだけれど、山本と一緒に過ごす時間は心底楽しく、山本のそばはひどく安心出来た。

なにもない、ただ平凡でつまらないだけだった人生が、まるでがらりと変わってしまった。



「なんかツナ、最近楽しそうだな」

並んで歩く学校への通学路で、頭一つ分小さな彼を見下ろしてそう言った。

「そう?」

「うん。雰囲気変わったっつーか、いい意味でな」

「そう、かな」

えへへ、とうれしそうに笑うツナに、山本の心臓がどきりと跳ねた。

もう随分前からそんな風になってしまっているのだけれど、その感情をなんと呼べばいいのか山本にはまだよくわからなかった。





だからそれは、とても衝動的な。





「えっ!?」

ツナは一瞬声が出せなくなるくらいに驚いた。

ぐいっと、山本がツナの手を引っ張って、そのまま学校へ行く道とは逆方向に走り出す。

「山本っ!?」

ただ無言のまま、まるで城からお姫様を連れ出すようにツナの手を引いて走る。道行く人もなにごとかと振り返る。けれど山本はそんなことも気にせずに、ただツナの手を引いて走った。



「や、・・やま、も・・っ」

ツナは元々運動神経があまりよろしくなかったので、すぐに息が続かなくなった。

そうツナが苦しく声を発したので、ようやく山本は足を止める。それと一緒に引いていた手も離した。

ゼェゼェと、マラソンのあとのようにツナは膝に手をついて息を吐く。

「わり・・、大丈夫か?」

やっぱり運動部に所属しているだけあって、山本は正反対に普段と変わらない。

「だ、だいじょ、ぶ・・じゃ、・・ない、よ・・っ」

こうして他人に反論出来るようになったのも、山本のおかげだとツナは思う。

「ど、したの・・?きゅ、に・・」

まだ息が続かないまま、ツナはやっと顔を上げた。

「あー・・いやー・・、特に意味はねーんだけど・・・」

自分でもどうしてそんなことをやってしまったのかまったくわからなかったので、山本は申し訳なさそうに頬を掻いた。

「はっ!?」

「わり。・・自分でもよくわかんね」

「なにそれ!?」

けれど、本気になって怒れないのは、この山本のなんの悪意も感じられない笑顔のせいだと思う。





ホント、ずるいよなぁ。





思ったけれど、それを口にするのはやめておいた。





「てかツナ、このままサボんね?」





「・・・は!?」








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どこかで描いたような流れですね(苦笑)
2007.04.12
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