2 背伸び



たけしくん、もとい、山本はあの日以来、いつも俺の隣にいてくれるようになった。

周りの人たちは当然、どうしてあの山本がダメツナと、なんて言っていた。正直なところ、俺も、そう思う。

けれど山本はそんな周りの反応なんか気にすることもなく、まるであたりまえみたいに俺と一緒にいてくれる。

だから、ちょっと、期待してしまう。

俺のことを友達って、あの頃のように俺のことをともだちだと思ってくれてるのかな、なんて。





「あの、・・山本」

オレンジ色に染まる教室で、ツナは突然に口を開いた。

今日も今日とて仲良く二人揃って補習中。こうして、家族以外の人間と二人きりの空間にも、ツナはようやく慣れてきた頃だった。

「んー?」

「ひとつ、・・聞いてもいい・・?」

「なに?なんかわかんねー?」

「そう、じゃなくて・・・」

「うん?」

もじもじと次の言葉を躊躇うツナに、山本は、ふ、と微笑んだ。その笑みに特別な感情が含まれていることは、ツナも、山本自身もわからない。



「あの、・・えと・・・・、俺、山本のこと、・・と、友達、って・・呼んでいいの・・?」



恐る恐る、山本の顔色をうかがうようにツナは聞いた。

突然の問いに山本は一瞬驚いたような顔をしたあと、少し考えるように眉間に皺を寄せた。その一瞬だけ、困ったようななんともいえない表情をしたのを、ツナは見逃さなかった。





あ、やっぱり・・・・





ずきり、と心臓が痛む。

わかっていたけれど、やっぱりそうじゃなかったんだ。やっぱり、そう思っていたのは俺だけだったんだ。

なぜだかわからないけれど、今まで友達じゃないと言われた中で一番胸が痛んだ気がした。

「や、やっぱりそうだよね!山本が俺なんかと・・っ、」

「あのさ、」

ツナの言葉を遮るように山本の低い声が響いて、ツナは一瞬身体を震わせた。

「じゃなくて、友達じゃなくて、」

「やっぱり・・・」

もうツナは泣きそうだ。期待していた自分がバカだったと、後悔した。







「友達じゃなくて、・・・親、友・・とか」







「・・・・・・へ?」

「うっわ!俺なに言ってんだろ。・・わり、今の忘れて!」

「・・・やま、もと・・、」

「今のナシな!」

予想すらしていなかった言葉に、ツナの頭は一瞬だけ思考回路が停止した。

「・・しん、ゆう・・って・・・」

うまく呼吸が出来なくなってきた気がする。聞き慣れない、むしろ初めて聞くような単語を聞いてしまったから。

「あー、いやー・・ほら、友達ってさ、そんなん誰にでも使えんじゃん?極端な話、一回会って意気投合しただけの相手とかでも。・・・だけどさ、親友ってそういう人の中でも特別ってゆーか・・・」

自分でも言ってる意味わかんねーんだけど、と山本は少しだけ頬を赤くしてそう言った。









「・・ツナは、特別だと思ってんのな、俺」









「・・・とく、べつ・・・?」

「うん、・・まぁ、どこが?って聞かれると困るんだけど、・・・なんとなく。ツナは大勢の中の一人にはしたくねぇな、って・・・」

「あの、・・俺・・・」

「あぁ、いーんだ。俺が勝手にそう思ってるだけだから。ツナは別に俺のことただの友達だと思ってくれても、」

不意にツナに視線を戻した山本はそれを見た瞬間固まってしまった。

「なっ!?ツナ、なんで泣いて・・っ」

「だ、だって・・っ」

ツナの大きな瞳から涙が零れた。悲しくないはずなのに、なぜか涙が止まらなかった。

「俺、おれ・・っ」

なぜそこで泣くのか、まったく見当もつかなかった山本は、ただどうしていいかわからずに困ったように手のひらを宙に泳がせた。

「・・とも、だちとか、いなくて、・・ひっく、・・しん、ゆ・・とか、はじっ、初めて、言われた・・から・・っ」

「・・・ツナ」

「・・ごめ・・っ、うれ、しくて・・」

「・・・・・・・・・」

どうしてそうしたのか、自分でもわからなかったけれど、次の瞬間には山本はツナをそっと抱きしめていた。

「・・・俺も、山本のこと・・・し、んゆう、って・・呼んでい・・?」

「・・いーよ」

えへへ、とツナが笑ったから、山本もつられて笑った。








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ちくしょう!甘酸っぱすぎたぜ!
2007.04.11
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