1 初恋



名前は、笹川綱吉。周りからはどうやら"ツナ"と呼ばれているらしい。

隣のクラスに笹川京子という双子の姉と、二つ上に笹川了平という兄がいるらしい。

体育は全然ダメみたいで、いつも理由を付けられて後片付けを押しつけられている。勉強はどうかといえばそれもまるでダメで、補習追試組常連。

だから"ダメツナ"なんて呼ばれていたりする。


それがここ一週間でわかったあいつのこと。

どうしてここまであいつのことが気になるのか、自分でもわからなかった。

だけどたぶん、あいつの、どこか世界から自分を遠ざけようとしているところが、自分と少しばかり似ているような気がしたからかもしれない。









「ツナくん」





急に教室が静かになったと思ったら、彼の双子の姉である笹川京子が山本のクラスを訪れた。

あぁ、そういや笹川ってモテんだっけ。

ぱっちりした人形のような瞳、蜂蜜色をした柔らかそうな髪の毛、守ってあげたくなるような華奢な身体。確かにモテ要素は完璧すぎるくらいある。





「あ、京子ちゃん」





"ツナくん"と"京子ちゃん"か。血の繋がった姉弟なんだろうけど、あいつらならその呼び方のが合ってるかもな。

「どうしたの?」

「体操服、借りていい?」

「えっ」

「持ってくるの忘れちゃって。お兄ちゃんに借りるのもどうかと思ったから」

ほわん、と。そんなたとえがぴったりのような、そんな雰囲気だった。

「そうかもしれないけど、俺じゃなくても他の女の子に借りればいいのに」

「だって体操服に付いてる名前で忘れたのバレるでしょ?」

「俺のでもバレるよ。クラス書いてあるんだから」

「あ、そっか」





ふわり、初めて彼の笑顔を見た。





結局笹川は弟に体操服を借りて教室を出て行ったのだけれど。

笹川が出て行った後は、またいつもどおりの教室。あいつもまた一人で。

なにもかもがいつもどおりに戻ったのに、俺の見える世界だけが違って見えた。








next


山本が「沢田」って呼ぶのが嫌だったので、ツナくん婿養子設定。
2007.04.07
[PR]動画