「よつばのクローバーってしってる?」

「よつばのクローバー?」

小さい頃、近所の公園で小さな男の子に会った。

「うん。それみつけると、しあわせになれるんだって」

「そんなすごいはながあるの!?」

小さな小さな男の子。出会いのキッカケはなんだったか、今では思い出せないけれど。

「はなじゃねーけどな。あ、こーゆーの。これのはっぱがよっつあんの」

「あるかな?ここにも」

まるでかわいい弟みたいな。俺の大事なともだちだった。

「あるんじゃねーかな?さがしてみる?」

「うんっ!」

だけど、なんでだろう。



大好きだったあの笑顔も、名前も、今はもう全部思い出せない。
















よつばのクローバー















1 初恋







「山本、聞いてる?」

日焼けしすぎて出来たのか、そばかすを鼻の辺りにこしらえた少年がそう問い掛けてきた。

「あー・・、なに?」

こいつ、名前なんてったっけ?

ぼんやりとした頭で、目の前にいる少年を見る。

スズキ?サトウ?そんなありきたりな名前じゃなくて、もっとインパクトのある名前だったような・・・・ってインパクトあったら覚えてるか。

「なんだよ、聞いとけよー」

と、やたらフレンドリーに話し掛けてくる彼を見て、あぁ名前なんて覚えなくてもそれなりにやっていけるのな、と今更ながらそう思った。




中学に上がるまで、というか今の今まで野球しか興味がなかった。

ひどい話だけれど、野球選手の名前はすぐに覚えられるのに、毎日顔を合わすクラスメイトの名前はなかなか覚えられなかった。

けれど、それで困ったことなんかなにひとつなかった。

自意識過剰かもしれないけど、自分からなにかアクションを起こす前に常に周りに誰かいたし、名前なんか思い出せなくても今のようにこうしてなんとかやってこれた。

野球さえあれば他はなにもいらない。他人なんかどうでもよかった。




「――でさ、」

彼は変わらず話す。俺にとってどうでもいい話を。

適当に相槌を打っておいて、教室をぐるりと見渡す。

あいつもあいつも、名前が思い出せない。さすがに同じ野球部の奴の名前くらいは覚えてるけど。つっても上の名前だけ。

あぁこれって若年性ナントカってやつか、とか思ったけど、入学してまだ一ヵ月しか経ってねぇんだから仕方ねーか。ん?でも一ヵ月経ってりゃ十分か。

って、よくわからんくなってきた。無い頭で考えるのはよそう。

視線を漂わせていた山本が、ある人物のところでぴたりと止まった。





・・・・・あいつ、誰だっけ・・・。





色素の薄い蜂蜜色の髪の毛、一般的な中学生男子より華奢な身体。周りが黒髪で、だからか余計に目立つ。

背中を向けてるからわからないけれど、確かあいつこそインパクトある名前だったような・・・。

こっち向け。向いたら思い出せそうな気がする。だからこっち向け。

心の中の、そんな山本の願いも虚しく、その子は一度も振り向かないまま授業を始めるチャイムが鳴った。












午後の授業はつまらない。食後の眠気も追加され、余計につまらないものになる。

山本は少しだけ夢の中で、ボーッと黒板を見つめていた。





「笹川!」





急に黒板の前に立っていた教師が大声を上げた。

自分の名を呼ばれたわけでもないのに思わず山本もびくりとしてしまう。

覚醒された脳で状況を把握する。クラスの全員の目がある生徒に集まっていた。それはさっきの休み時間ずっと山本が見つめていた人物。

「笹川、また居眠りか」

教師の呆れたような声と、クラスメイトの冷ややかな目と笑いがごっちゃになってその人物に注がれる。

「す、すみません・・」

小さな声でその人は謝る。

笹川・・・。あぁ、思い出した。







笹川ツナヨシ。







確かそんな名前だった気がする。

見た目とはかなりギャップのある、こう言っちゃ悪いけど大層男らしい名前。

ようやく胸のつっかえが取れた気がした。








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なるか!?長編・・!あくまで予定だ!(ヲイ)
2007.04.06
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