8/31 23:14 From 山本 Subject 無題 ツナ、今から出てこれる? -----END----- 午前0時のプール 「山本、ホントに大丈夫?」 「だーいじょーぶだって」 にっ、と自信あり気に山本は笑うと、よっ、と言いながら軽々学校のフェンスを越えた。 「ツナも!ほら早く!」 山本に急かされ、ツナはフェンスに足をかける。 「・・うわ、結構高・・・っ」 思っていたより高さのあったフェンスに、ツナは思わず怯む。 「ツナ!そっから飛んで!」 「はっ!?」 「受け止めっから!」 「む、むりだよ!」 「いーから!早くしないとバレる!」 「・・っ、もう!知らないよ!」 半ば自棄になって、ツナは意を決してそこから両手を広げる山本に向かってダイブした。 山本を疑っているわけではないけれど、日々のダメツナっぷりを自分でも自覚しているので、絶対に見当違いの場所に飛んだと思った。 「・・・、?」 顔面着地確実だと思っていたけれど、いつまで経ってもその衝撃が訪れないので、恐る恐る目を開ける。 そこには、地面なんかではなくて、山本の広い胸板があった。 「は、れ・・・?」 「ナイスキャッチ、俺」 「わっ、あっ、ごめ・・っ」 にこりと笑ったその顔があまりにも至近距離にあって、ツナは急いで山本から離れた。それと同時に赤くなる顔とドキドキとうるさくなる鼓動。 「ツナ?どっか痛かった?」 「えっ、あ、へ、へーき!ありがと・・・」 「ん!」 至極うれしそうにわらって頭を撫でられてしまって、ツナの顔はますます赤くなるばかりだった。 「うわー、なんか夜のプールって雰囲気あるなー」 校庭の隅にあるプールまでやって来た山本は、楽しそうにそう言った。 「山本、・・・やっぱ、帰ろ?」 「なんで?」 「だって・・っ、バレるよ、絶対」 「大丈夫だって」 ツナは心配性なのなー、と笑いながらぽんぽんと頭を撫でてくる山本に、その自信はいったいどこから来るんだと突っ込みたかったけれど、どうせそんなことを言ってもしょうがないことをツナはすでにわかっていたので、大人しく口をつぐんだ。 「よし!泳ご!」 「えっ、」 そうはりきると、山本はズボンの裾を膝まで捲り、履いていたサンダルを脱いで勢いよくプールに飛び込んだ。瞬間に、ばちゃーんっという音と一緒に、まだプールサイドにいたツナに水しぶきがかかる。 「ちょ、山本・・っ、服着たまま・・・っ」 「ぷはっ、きもちいー!ツナも来いよ!」 「へっ!?なに言って・・・、やだよ!」 「そっかそっか。ツナは泳げないもんなー」 プールサイドに手を乗せてにやにやと意地悪く笑った山本に、ツナはムカッと頭にきた。 「ふ、服が濡れるのが嫌なだけだもん」 そして、ぷく、と頬を膨らませたツナに、山本は楽しそうに笑う。 「ふーん。ツナ泳げるようになったんかー」 じゃあ授業のあれは演技だったのなー、とまた意地悪く笑う山本に腹が立つ。 「お、泳げるよ!ちょっとくらい!」 意地を張って言った言葉にしまったと思ったときにはすでに遅く、にこりと山本は一際意地悪く笑った。 「泳げんならいーじゃん」 「え、待っ!俺は泳ぐとは言ってな・・っ!」 「待ったナーシ」 がしっ、と山本に腕を取られてそのままプールに引きずり込まれた。 「・・ぷっ、はぁ・・・、っにすんのっ!?」 「きもちーだろ?」 本気で怒ろうと顔を上げれば、憎たらしいくらいににこにこと山本は笑っていた。いっそ清々しいくらいに満面の笑顔になにも言えなくなる。 その自由過ぎる男にあまりにも腹が立って、ツナは山本に向けて、ばしゃっ、と水をかけた。 「ぅわっ!?」 「水も滴るいい男だね」 ふふん、と鼻で笑えば、やったなと山本もツナに向けて水をかける。 「わっ!?ひどっ、ちょ、量多くない!?」 「倍返し」 「っ、むかつくっ!」 「いてっ、鼻に入ったっ」 「ざまーみろー」 「なっ、いつからツナ、そんな汚い言葉使うようになったんだ、よっ」 「わ、ぷっ!?山本こそ、いつからお父さんになったんだ、よっ」 「俺はそんな子に育てた覚えはありま、せんっ」 「わぁっ、ちょ、やめて・・っ」 ばちゃばちゃと水をかけ合う音と、二人の笑い声だけが静かなプールに響いた。 「うわー・・、びしょびしょだよ・・・」 プールサイドに腰を下ろして、足だけまだプールにつけたまま、ツナは濡れたシャツの裾をぎゅうっと搾った。 「明日風邪引くかもなー」 同じくツナの隣で足だけプールにつけたまま、あはは、と山本は能天気に笑った。 「風邪引いたら山本のせいだからね」 「そうだなー」 まるで気にしていない風に山本が笑うので、腹が立ったツナは山本の腕をグーで殴った。 まだまだ暑さの残る夜。時折吹く風もなんだか生暖かい。 遠くの方で、虫の鳴く声とさわさわと葉と葉が擦れる音が聞こえるだけで、二人のいる真っ暗なプールはとても静かだった。 「・・・なんで急にプールなんか来たの?」 ぴちゃん、と足先でプールの水で遊びながら、ツナが静かに聞いた。 「・・・なんでだろーなー」 うーん、と空を見上げると、星がキレイに輝いていた。 「なにそれ」 相変わらず水で遊びながら、ツナはくすりと笑う。 「ツナと夏休み最後の思い出を作ろうかな、と」 相変わらず夜空を見上げながら、山本は真剣に答える。 それにはツナはなにも答えずに、それきりまた沈黙が流れた。ツナがちゃぷちゃぷと水で遊ぶ音以外、そこには音がなかった。 真っ暗な沈黙の中、山本が不意にツナの手に触れる。 急に伝わった暖かい体温に、どきりと心臓が跳ねて水で遊ぶのをやめた。 「・・・ツナ」 呼ばれて顔を上げると、そこには至極真剣な表情をした山本に見つめられていた。 「な、に・・・?」 どくん、と心臓が鳴る。うまく呼吸が出来なくなって、ひどく掠れた声しか出なかった。 「・・・俺さ、ツナのこと好きだよ」 いつもの茶化すような言い方ではなくて、とても真っ直ぐで真剣な眼差しに目が離せられない。 金縛りのように動けなくなったツナの顔に影が落ちる。 そ、と、触れるだけの感触。 「ツナは俺のこと好き・・・?」 触れた唇は、プールに入ったせいなのか少し冷たくて。 「・・・そ、ゆこと・・・キスしたあとに、聞く・・・?」 喉がひくついてうまくしゃべれない。 「・・・俺も、・・・すき、だよ・・・」 赤い顔をして目を伏せたツナにもう一度、そ、と。 「・・・だいすきだよ、ツナ・・・」 午前0時、水面に映った二人の影が重なった。 |
山→←ツナ。のつもり。 |
2008.08.19 |