休日に彼女のおうちでデート。なんて、お付き合いが長いみたいで素敵じゃないか。






もしもの話






別にツナは女の子じゃない。(女の子だったらきっともっとかわいいに違いない)

そもそも俺たちは付き合ってるわけじゃない。(付き合えたらどんなに素敵なことだと思うけど)

友達以上恋人未満。

きっとそんな言葉が一番しっくりくる関係。だと俺は勝手に思っている。

"親友"だなんてツナが勝手に思ってるだけだぜ、なんて言ったらきっとツナは泣いてしまうんだろうな。

でも泣き顔も見てみたい。そう思う俺は、たぶんもう末期だ。

笑った顔も怒った顔も困った顔も泣いた顔も、全部ぜんぶ俺だけのものにしたい。



なんて、エゴイズム。



ちらり、顔を上げると意中のあの子がベッドに転がって漫画を読んでいた。

あぁ・・ツナ、それは誘ってんのか?襲ってくれてもいいですよ、ってそういう合図なのか?

「ツナはさ、無防備すぎるんだよ」

前にそんなことを言ったら、言ってる意味がわからないというような顔をされた。

男は狼なんだぞ。わかってんの?しかも今は、めずらしくツナの周りの余計な付属品もいない二人きり。マジで襲っちまうぞ。いいの?いいんだな?

視線でそう訴えたところで、ツナにはまったく全然伝わらない。

山本は小さく溜め息をついてふと本棚を視界に入れた。そこに、漫画だらけのその空間に違和感のあるものが一つ。



なんだこれ・・・?



思ってそれに手を伸ばした。少しホコリがかぶっているそれは、青いアルバム。表紙には『ツッくんのおもいで』と書かれてあった。おそらくツナの母親である奈々が書いたものだろう。

「ツナー、これ見ていい?」

「んー、いーよー」

漫画に夢中になっていたツナは、山本の方を見向きもしないで返事だけ返した。

なんだよ、ちょっとは俺に興味持てよな。

ツナの反応に少し拗ねた山本だったが、その表紙をめくった瞬間そんなものはどこかへ吹き飛んだ。

そこにいたのは生まれて間もないツナが、母親の奈々に抱かれて眠っている姿。



「・・・かわ・・っ!」



思わず大声を出してしまいそうになってツナの反応をうかがったたが、ツナはやっぱり漫画に夢中だったのでそれには気づかなかった。

どうしよう。やばい。ありえないくらいかわいい。なんだこのかわいい生き物。

今より丸みを増したぷにぷにのほっぺ。くりくりの大きな瞳。愛らしい小さな鼻と口。色素の薄い柔らかそうな髪の毛。

どれもこれもが山本のツボだった。

うっわー・・、すっげー触りてぇ・・・!

そうしたからって別に本物に触れるわけではないのに、思わず山本は写真に写った小さなツナを撫でた。

「?なに見てんの?やまも、」

ようやく漫画の世界から抜け出したツナが身体を起こす。

「ちょ、なに見てんの!?」

山本の手にあったものを見てツナが声を上げる。

「なにって、アルバム」

「どっから引っ張り出してきたんだよ!」

それを取り上げようと手を伸ばしたが、山本が避けてしまったので結局未遂に終わった。

「だーめだって。ツナが見ていいっつったんだから」

俺がなにをしようとしていたのか、見向きもしなかったツナが悪い。

「そ、そんなの見てもおもしろくないでしょ!?ね!?だから返して!」

「やーだ。全部見てねーもん」

「見なくていーよ!」

どう抵抗しても山本には敵わないと思ったのか、ツナはあきらめて山本にそれを見せることにした。



「・・・そんなの見てなにがおもしろいんだよ」

少しご機嫌が悪くなってしまったらしい、ツナは拗ねたように口を尖らせた。

そんな表情もかわいいなーと思ってしまう。山本は、へら、と笑った。

「ツナはさ、結婚してぇなーって思う?」

唐突にそんなことを聞いてみた。

「・・・べつに」

まだ機嫌は直らないらしい。

二人きりのこの空間でこの名前は出したくなかったけれど。

「・・たとえば、笹川とか」

「な・・っ!?」

途端にツナの顔色が変わる。真っ赤になって口をぱくぱくさせた。

その名前を出して一番傷つくのは自分だというのに。なんだか自分で言っておいて悲しくなってきた。

「してぇなって、思う?」

「・・そ、そりゃ・・っ、でも、むりだよ・・っ!」

無理ってさ、もう無理な話でもねぇような気がすんだよな。結婚は先の話すぎてあれだけど、付き合うくらいなら無理じゃないと思うのな。

そう思ったがそれを口にするのはやめておいた。今ツナを他の誰かに取られたりしたら困るし、すっげー嫌だ。

「そんじゃさ、もしもの話・・、」

「?」





「・・俺と結婚したら男と女どっちが欲しい?」





「・・・・山本とは結婚できないよ?」

「いや、わかってっけどさ・・・、もしもだって」

我ながら痛いよなぁと思った。でもこういう話って、付き合ってる恋人の会話っぽくていいよなぁ。実際付き合ってるわけじゃないけど。

「よくわかんないけど・・・。だったら山本みたいな子どもが欲しい」

あぁ・・こういうバカな話にもマジメに答えてくれるツナが好きすぎる。

「俺みたいな子?」

「うん。運動神経良くて頭良くて人気者でかっこいい男の子!」

ふーん。ツナにはそう見えてんのか。なんか顔がにやける・・・。

思わず緩みそうになった口を押さえた。

「そんな子どもができたら、俺毎日いろんな人に自慢しちゃうなぁ」

俺の子を(実際には俺みたいな子を)自慢するツナを想像して顔がにやけた。けどたぶん実際そうなったら、俺はその子どもにやきもちを焼いてしまうかもしれない。

「山本は?どんな子が欲しい?」

それって軽くプロポーズだろ、と突っ込みたかったが、相手がツナなだけにきっとこれも無自覚な質問なんだろうと、それを言葉にするのはやめた。

「んー・・、」

ふと手元のアルバムに目を落とす。満面の笑顔を向ける幼稚園生のツナがいた。

「俺はツナみたいなかわいい女の子が欲しいな」

「はっ!?」

「は?って、・・ほら、だってすげーかわいーじゃん」

なんでこの頃にツナに出会わなかったんだろうと後悔するくらい、このアルバムの中にいるツナはかわいい。今も十分かわいいけどな。

「どこが!この頃からダメツナだったんだよ!?」

お遊戯は苦手だったしよく転んでたし、とダメツナの歴史を語られたが、山本にはツナの全部に"かわいい"というフィルターがかかってしまっているので、そんな歴史を語られたところでかわいいとしか思わなかった。

「んー、でもやっぱツナに似てるとやだな」

「うん、でしょ!?そうはっきり言われるとちょっと傷つくけど・・・」

「だってさ、高校生とかんなって彼氏連れてこられたら、俺たぶん泣く」

「・・・・は?」

「あぁ、でも最近じゃ幼稚園とか小学生とかでも彼氏作っちまうんだっけか。やだなぁ、それ」

「・・・山本、それ話が飛躍しすぎじゃない?」

最近はかわいい子どもを狙った犯罪が多いしな、やっぱツナに似ちまうとダメだな。俺たぶん毎日気が気じゃない。

そういう結論に達して、一人うんうんと頷く山本にツナがツッコミを入れる。

「なに一人で納得してんの!?」

「うん、でも本物が一番かわいいよな」

「は?」

ぽんぽんと頭を撫でてにっこり笑う。





「なーツナ、俺と付き合わね?」





いきなり子どもを作るのは無理だからさ、まずは恋人になることから。

そこから始めてみませんか?







暴走した武は誰にも止められない(笑)
ツナの返答はみなさまのご想像にv
2007.05.02
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