春の陽射しが暖かかったから。

だからちょっとうとうとしてただけだ。







ひざまくら






「こんなにあったかいと眠くなっちゃうねー」

空から注がれる暖かい陽射しをめいっぱい浴びながら、ツナは眩しそうに空を見つめて目を細めた。

「そうなー」

こちらも眩しそうに空を見つめて目を細めながら、山本はそう答える。

そこは青い空を間近で一望出来る屋上で、ツナと山本はいつものように、昼休みにその場所を陣取っていた。哀しいかな獄寺は、ここへ来る途中神出鬼没の姉によって、ただ今保健室で絶賛休養中である。

一つ大きなあくびをして、ツナは、カシャン、とフェンスに凭れた。

「・・・チャイムが鳴ったら起こしてね・・・」

半分もう夢の中で、ツナは目を閉じた。

「おー」

山本がそう返したのと同時に、隣から気持ちよさそうな寝息が聞こえてきた。










「っ・・・」

・・・・やば!寝すぎた!

がばっと勢いよくツナは身体を起こした。

思ったより随分と長い時間眠っていたような気がする。チャイムは鳴っただろうか。次の授業に出席しなければ、また今日も居残り決定だ。

山本、起こしてって言ったのに!

爆睡してしまった自分が悪いのに、思わず一緒にいた山本のせいにしてしまう。

ふとあたたかいなにかに包まれているような気がした。春の陽射しの暖かさ、ではなく、誰かの体温のような温かさ。

「起きたか、ツナ」

聞き慣れたその声は、なぜか頭上から聞こえた。

「っ!?」

見上げてひどく驚いた。



山本が、でかい。



慌てて、今置かれている状況を高速で把握した。

なにかの事故で山本の胸の中で寝てしまったとしても、目線の先は山本の顎辺りのはずだ。でも今、目線の先にあるのは学校指定のセーターで。

なぜか山本の膝の上に乗っていて。山本がなんだか異様にでかくて。

そして。





「!!?」





思わず声にならない声を発した。

手のひらを広げてみれば、柔らかそうなピンクの肉球がある。腕を伸ばしてみれば、ふわふわの紅茶色の毛が生えていて。うしろを振り返れば、長い尻尾が動いていた。

「にゃっ!?」

無意識に発した言葉は、声というよりあの動物の鳴き声。

ね、猫・・・?なんで俺猫になってんのーーー!!?

完全パニックに陥ったツナの頭を、温かいけれどどこか硬いなにかが撫でる。それが山本の手のひらだということにすぐに気づいた。

「にゃーにゃーにゃー!!」

どうしてこうなってしまったのか、山本にそう尋ねたかったが、それは言葉にはなってくれなかった。

「なんだ?お腹空いたか?」

そう聞かれ、ツナは思い切り首を横に振った。

「にゃーにゃーにゃー!!」

「どうしたー?ツナー」



ふわり。



身体が宙に浮いたと思ったら、すぐ近くに山本の顔がある。

近っ!?近いよ!山本!

そう訴えたけれど、やっぱりそれも言葉にはならなかった。

「元気だなー、今日のツナは」

笑う山本の顔がいつもより近すぎて、顔が熱くなる。

「あ。今日からツナ、山本ツナな」

は!?

「親父がツナ飼ってもいいって。よかったなー」

え!?なに!?俺、野良猫設定!?

もうなにがなんだかわからなくなってきた。

「帰りに首輪買って帰るからなー。ツナ、何色がいい?」

山本、俺に話しかけても俺しゃべれないよ。

仕方がないので、ツナはこのありえない現実を受け入れることにした。

神出鬼没の赤ん坊の家庭教師とか、バズーカで10年後と入れ替わってしまう居候の子どもたちとか、ランキングのたびにイリュージョンを起こす少年とか、即席で毒入りの料理を作ってしまう家庭教師の愛人とか。

ツナの周りは日に日に平凡をかけ離れていっていたので、こんな状況にも耐性がついてしまっていた。

「ツナ、気持ちいいのなー」

今度は腕の中に包まれ、喉元を撫でられた。

くすぐったいよ、山本!

言いたいけれど、それは言葉にならないと学習したので大人しくしていることにする。

・・・なんか、気持ちよくなってきた。

「お、ゴロゴロ言ってる」

うれしそうに笑ってまた撫でてやれば、ツナはうとうとしてき始めた。

あー、また眠くなってきた・・・。

暖かい春の陽射しに温かい山本の腕の中、猫にとって一番気持ちいいそこを撫でられて、ツナはまた夢の中へ入る。

言葉は通じないけど、別に猫のままでもいいかな。山本、あったかいし。




「おやすみ、ツナ」




そっと優しく囁いた声は、かろうじてツナの耳へ届いた。











穏やかな風が頬を撫でる。耳には、優しい春の風の音と愛しい人の寝息が混じって聞こえ、視線の先にはその人の気持ちよさそうな寝顔が映る。

「ホント、気持ちよさそーに寝るよなー、ツナは」

山本の膝の上には、ツナが気持ちよさそうな顔で眠っていた。

フェンスに凭れて眠っていたツナだったが、こくこくと頭を揺らすツナを安定させるように山本が自分の肩を貸した。けれどそれでも、こくこくと頭を揺らすツナに、結局膝を貸してやることにしたのだ。

「無防備な奴だなー」

そっと頭を撫でる。柔らかいそれが手のひらに心地良かった。




「・・・にゃー」




突然小さく発した寝言に一瞬驚いたが、すぐにその頬は緩む。

「寝言でにゃーって、どんな夢見てんだよ」

さらりと揺れる髪の毛を梳いてやれば、その寝顔はうれしそうに笑う。

あー、このまま喰っちまいてぇ・・・。そう思ったが、それを口にするのはやめておいた。

校内にチャイムの音が鳴り響く。

「あ、やべ」

そうは思うが、この気持ちよさそうな寝顔を見ていると、なんだか起こしてしまうのがもったいなく思えてきて。

「・・まー、いっか。このままツナと居残り決定で」

どうして起こしてくれなかったの、と怒る顔が目に浮かび笑みが零れる。





「ツナ、好きだよ」





そっと優しく囁いた声は、残念ながらツナの耳へ届かなかった。







猫ツナ妄想楽しいな。
2007.02.17


presenter by NOION様


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