いつも同じ公園で見かけていた、小さなあの子。 同じ顔をした女の子と一緒にいたり、上級生風の男の子と一緒にいたり、たまにぽつりと一人でいたり。 どうしてかわからないけれど、ずっと気になってたんだ。 きみのことが。 9 二人乗り 「泣き止んだ?」 ぐすっと鼻を啜ってツナはこくんと頷く。 「・・ごめん。俺、泣いてばっかり・・」 「いーって。つか、謝るのは俺の方だと思うのな。ツナのこと泣かせてばっかだし」 苦笑しながらそう言った山本に、ツナもつられて笑った。 「・・・あ。」 と、今度は手元に視線を移したツナが声を上げる。 「どうした?」 「山本からもらった四つ葉のクローバー・・」 ぎゅっと握り締めていたせいか、小さなそれはくたりと萎れていた。 「ごめんね。せっかくもらったのに・・・」 「・・・じゃあツナ、それ貸して」 「?うん」 とりあえず言うとおり山本へそれを渡すと、山本は近くに咲いていたシロツメクサを一本ちぎり、萎れたそれと絡めた。そして器用に編んでいく。 「ん、ツナ。左手貸して」 「?」 今山本の手でなにが作られたのか検討もつかなかったが、言われたとおり左手を出す。山本はツナの手を取ると、薬指にそれをはめた。 「できた」 「わぁ・・指輪?」 「ん」 「すごーい!器用だねー」 左手薬指って、結構わかりやすい告白したのになぁ。 そう思ったけれど、それを口に出して言うのは躊躇われた。それを言ってツナをまた傷つけてしまうんじゃないかという思いの方が強かったから。 「・・せっかくここまで来たんだし、ちょっと遊んで帰るか!」 告白も出来ないなんて、ちょっと俺ってかっこ悪い。 なんてな。 「ツナ、借りてきたぜ!」 駅に戻った山本は、レンタルの自転車を借りてきたようだった。 「なんで一台だけなの?」 でも借りてきたのは一台だけ。一日借りたとしてもそんなに高くはないはずなのに。 「いーからいーから。ツナ、うしろ乗って」 「・・うん」 うしろに乗ったツナは、申し訳程度にそっと山本の腰を掴んだ。今までこんなに近づいたことはなかったので、思わずどきりとしてしまう。 ツナも同じようにドキドキしてくれていたらいいのになぁと思うのは、俺のわがままなんだろうか。 「いくぞ?」 「うん」 勢いよくペダルをこいだ。 空から注ぐ陽射しは暖かく、頬を撫でる風は冷たく気持ちいい。海岸沿いに走っているから、潮の香りが強い。 「気持ちいーなー」 「うん」 まるで野球だけしかなかった俺の世界に、二度も色をくれたツナ。 本当は、あの日公園でツナに話しかけたのは偶然なんかじゃなかったんだ。笹川やお兄さんと一緒に遊んでいるツナを見て、ずっと友達になりたいと思ってた。あの笑顔を俺にも向けて欲しくて、いつもどうやって話しかけようかって考えてた。 それが恋心だったなんて、あの頃の俺はこれっぽっちも思ってなかったけど。 「──山本、聞いてる?」 「んー、聞いてる」 「でね、どう思う?」 「なにが?」 「やっぱ聞いてないんじゃん!」 「あはは」 でもそれは、左薬指にはめた指輪の意味がわからなかったツナには、悔しいから教えてやらない。 「あ、ツナ」 「なに?」 「しっかり掴まってろよ?」 「?うん」 ツナの返事を聞くのと同時に、山本は思い切りペダルをこいだ。 「えっ、わっ!?」 いきなりスピードを上げた山本に、思わずツナはぎゅっと抱きつく。自他共に認めるドジっ子なので、こんなにスピードを上げられたらきっと落ちてしまう。 「ちょ、山本・・っ、どうしたの!?」 「んー、電車と駅に着くの、どっちが早いかと思って」 「電車・・?」 「うしろ」 ツナの耳にかすかだが電車の音が聞こえた。 「うしろって、」 落ちないように山本にしがみついて、そっとうしろを振り返る。遠く、トンネルの向こうからわずかに黄色い光が見えた。 「もうそこまで来てるよっ」 「いや、俺のが早い」 目の前に駅は見えている。まだだいぶ遠いけど。 「電車に勝ったらさ、ツナ、俺のお願い聞いてくれる?」 「いいけど、」 「よっしゃ!」 「でも無理だよ。だってもううしろ・・っ、」 トンネルから電車が顔を出していた。 「やってみなきゃわかんねーって」 「だけど・・っ」 またスピードを上げた山本に、いよいよ危険を感じてありったけの力でしがみついた。 だんだん電車の音が大きくなる。 「山本、抜かされるっ!」 最初こそ怖がっていたツナだったが、いつの間にかこの勝負を楽しんでいた。 「マジでか!?」 追いつく。追いつく。電車はすぐうしろ。 「来たよ!山本!」 「はえーよ!」 追いつく。追い越せ。電車は二人を余裕で追い越した。 「・・・・・ふっ」 「・・、あははははははっ」 すっかり遠くなってしまった電車に、二人揃って大笑いした。 「はー・・、疲れた・・。誰だよ、勝てるなんて言った奴」 「ホントだよ」 さっきまで全力でこいでいたので、もうペダルを踏まなくても自転車は自動的に走る。 「でももうちょっと駅が近かったら、山本が勝ってたよね」 「ツナもそー思う?」 言い合って、また吹き出した。 「そういえば、山本のお願いってなんだったの?」 「んー、ひみつー」 「なにそれ」 こんな無茶な賭けに勝ったら、ツナに告白してOKもらえそうな気がしたんだ。なんて思ってたことは、ツナには言えない。 初恋は叶わないなんて誰が決めたんだろう。 たぶん、そう言った奴はきっと、好きになってもらおうって努力しなかったんだ。やってみなきゃわかんねーのに。 「ツナ」 「なに?」 「・・ありがとな」 「なにが?」 一発逆転ホームランを狙って、思い切り足掻いてみようじゃないか。 「・・いろいろ!」 |
山ツナでやらせたいことを詰め込んだらこんな微妙になりました(笑) |
2007.05.25 |