7 夕焼け もう随分と暖かくなってきたからか、陽が落ちるのが遅くなってきたような気がする。 西日の射す教室で今日も仲良く山本とツナは補習に励んでいた。遠くの方で吹奏楽部の練習する音や、運動場で運動部の部員たちの声が聞こえるだけで、二人きりの教室はとても静かだった。 山本がふと顔を上げると、ツナが視界に映る。真剣に問題を解こうとしているのか、眉間に皺を寄せプリントとにらめっこをしていた。 あぁ、どうして気づかなかったんだろう。 山本は頬杖をついて、うーんと唸るツナを見つめた。 こういう言い方は失礼かもしれないけれど、あの頃とそんなに変わらない容姿をしているというのに。 ツナは覚えてんのかな、俺のこと。覚えてくれてたらいいな。 「おれ、たけし!おまえは?」 「・・つ、つな・・・つなよし・・・」 「ふーん。・・じゃあ、」 「・・・ツナだな」 今までずっと静かだった教室で山本が突然声を出したので、ツナは少しびっくりしたような顔を山本に向けた。 「なにが?」 「武でいーよ、ツナ」 「へ?」 頬杖をついたまま無表情でそんなことを言い出す山本に、ツナは少しだけ困惑したような表情を返す。 「やま、もと・・?」 「ツナ、」 「な、なに・・?」 もう昔のことだから、ツナは忘れた? 「四つ葉のクローバーって知ってる?」 「・・よ、つばの、クローバー・・?」 短い間だったけど、あの公園で毎日のように遊んだ日々を覚えてる? 「うん。それ見つけると、幸せになれるんだって」 「・・・・・・・・」 あぁ、やっぱり覚えてないか。 「・・・ごめん、ツナ。なんでも、」 「・・・・・そ、・・・・・そんなすごい花が、あるの・・?」 「え・・・?」 あの日と同じセリフ。それはただの偶然?それとも・・・・、 「・・・・・・・・」 「・・・・・・・・」 「・・ツナ、いつから・・・?」 たった今。そう言われても構わなかった。 「・・・入学式、・・の、とき」 「・・マジ・・?」 「・・山本の名前見つけて、もしかしてそうかな、・・って」 こくりと頷いてツナはそう答えた。 「山本の顔見て、本人だって、・・思った」 「・・・そんな、前から・・・」 つい昨日思い出した俺と違って、ツナはそんなにも前に。 「だ、だって、・・初めて出来た友達だったんだもん」 同じクラスになって初めて声をかけたあの日、もしかしたらツナは俺に期待していたのかもしれない。 俺がツナのことを覚えていた、と。 「だから、すっごくうれしかったんだよ。・・また会えた、って」 もしそうだったとしたら、また俺は、 「・・・ごめん」 「なんで謝るの・・?」 「だって俺、ツナのこと昨日思い出したから。ツナのアルバム見て、ツナの名前も、・・全部」 「そんなの、いーよ。・・思い出してくれただけでもうれしいし」 へへ、とうれしそうに笑うツナに、胸が、ぎゅう、と痛くなった。 「・・あー・・、・・マジで、ごめん」 またツナを傷つけていたのかもしれないと思うと、なんだか自分が心底嫌になった。 「いいって、別に。俺はうれしいから」 そう言ったあと、ね、と笑うオレンジ色の増したツナの笑顔があの頃と同じで。 「ツナ・・・」 あの頃と同じように胸の奥が、ぎゅう、と締めつけられた。 |
あ、甘酸っぺぇ・・・!(自分で言うな) |
2007.04.29 |