夢を見た。

あの公園で、たったひとりのたいせつなともだちを待つ夢。

いつものように公園で待っていても、その日たけしくんは来てくれなかった。次の日も同じように待ったけれど、たけしくんは来なかった。

もしかしたら早く帰るのがいけないのかもしれないと思って、夕陽が沈んでまっくらになるまで待った。けれどたけしくんは来なくて。

「ツナ!まだ遊んでたのか」

来てくれたのは父さんで。晩ご飯の時間になっても帰ってこない俺を心配して迎えに来たらしい。

「帰るぞ」

「・・やだ!まだたけしくんとあってないもん!」

「・・たけしくんは風邪でも引いたんだろう。帰るぞ、みんな心配してる」

「やだ!」

いくら駄々をこねたところで父親に勝てるはずもなく、いやいやと駄々をこねる俺を軽々と担ぎ上げて家に帰った。

雨の日も公園に行った。さすがに雨の日だけあって、公園には誰もいない。それでも待った。もしかしたら、って。

「ツッくん」

来てくれたのは母さんで。風邪を引くかもしれないと心配して迎えに来たらしい。

「風邪引くわよ」

「・・だって、たけしくんが・・っ」

「・・たけしくんは、今日は雨が降ってるから家にいるのよ、きっと。・・・だからツッくんも」

「・・・・・・・」

雨の中ずっと待っていたせいで冷え切った自分の手が、母の暖かい手に握られて、それがなんだか無性に懐かしくて泣きながら家に帰った。



どれだけ待ってもたけしくんは来ない。

もう、俺には会いに来てくれないんだね。



「ツナくん、今日は公園には行かないの?」

「・・・行かない」

「ツナ、兄ちゃんが遊んでやるぞ!」

「・・・・行かない」

それから、あの公園には行きたくなくなった。

だから、待つのは嫌なんだ。期待するのは嫌なんだ。





ともだちなんて、いらない。
















6 涙















日曜日。空は久しぶりに晴れた。昨日までの雨が嘘のように雲ひとつない青空。笹川家は日曜日だというのにとても静かだった。

父さんと母さんはデートだとか行って揃って出かけちゃったし、お兄ちゃんはいつものように部活だろ、で、京子ちゃんが黒川とお買い物。

「・・・暇だなぁ・・・」

ぽつり、そう呟いたのと同時に家のチャイムが鳴った。

誰だよと、半ばめんどくさそうに玄関の扉を開ければ、そこには山本が立っていた。

あまりにも突然で心の準備もなにもしていなかったせいか、見舞いに来てくれたというのにツナは追い帰すような態度を取ってしまった。挙句、そこにいることも出来なくなって、自分の部屋に逃げ込んでしまった。

そして現在、ツナは布団の中。どうしていいかもわからずに、ただ黙って山本の話を聞いていた。



「・・・それがさ、実際ホントに仲良かったの、ツナしかいなかったんだよな。ちゃんと友達って言えるの、ツナしかいなかった・・・」

友達って、俺のこと。

「・・だから、さ、・・・俺、ツナと一緒にいられてすっげー楽しかったんだぜ?・・あんなに学校が楽しいって思ったの、初めてだった」

俺といて楽しい、って。

「なのに、・・・ごめん。あのとき・・・」

どうして。

「あいつら、ツナのことそーゆー風にしか見てないから腹立って・・・。話すのも嫌になってきたから、なにも、・・否定もしなかった」

どうしてどうして。

「だから、・・・ごめんな?」

どうしてそんなに。







「・・・ツナがさ、もう嫌だって思うんなら、・・・俺、ツナの友達やめるから・・・」







山本は。

「・・・それだけ、言いたかっただけだから・・・」

俺のこと。





「・・っ、どーしてそんなに優しくするの!?」





突然大声を上げたツナにびっくりして山本が振り向くと、ツナがこちらを向いて睨んでいた。けれどその瞳はひどく哀しそうで。

「・・・・ツナ・・・・」

「俺、・・あんなにひどいこと言ったのに・・っ!」

もし自分が同じことを言われたら、きっと立ち直れないような言葉をいっぱい。

「・・なのに、・・・なのになんで・・っ!?」

ぽろ、と涙が零れた。

別に泣くつもりはなかったのに。

一度溢れてしまった感情はなかなか抑えることが出来なくて、ツナの大きな瞳からはどんどんと涙が溢れた。

「・・・ツナ・・・、ごめん・・・」

「・・、それってどーゆー意味のごめんなの!?・・わかんないよ・・っ、俺には、・・ぜんぜん、わからない・・っ」

他人と仲良くするということが、友達というものが、親友の意味が、

こっちが傷つけたのに、「ごめん」と言う、山本が、





わからない。





「・・ど、・・して、・・・やま、も、・・っと、は・・っ」







どうして山本は、俺なんかに優しくするの?







「・・・ツナ・・・」

「・・おれは・・っ、お、れ・・っは、・・」

あのときから、俺のともだちは山本しかいない。

山本がいたから、山本とともだちになれたから、学校が楽しくなった。

否定しなかったことに傷ついたのは、山本だったから。

せんぶ、

全部ぜんぶ、





山本のせいだ。





「・・・ツナ・・・、」









もう俺は、





待っていなくてもいいの・・・?









「・・っ、とも、だち・・っ、やめ、ないで・・っ」

「ツナ・・・」

「いや、じゃ、ない・・から・・っ、・・ぜん、ぜん・・っ、いやじゃ、ない、から・・っ!」

「・・ツナ、・・ごめんな?」

ぽん、と山本がツナの頭を優しく撫でた。



「・・・もっかい、」



泣きじゃくるツナの頭を撫でながら、そっと山本が言葉を発する。





「・・・今度は友達から、・・始めてみませんか?」





顔を上げると、いつもの優しい笑顔の山本がいて。

「・・・はい・・っ」

その日初めて、俺はともだちに本音を吐いた。











涙の仲直り。
2007.04.24
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