4 ひとりぼっち 学校に行きたくなかった。 山本に会いたくなかった。 今日で学校を休んで4日目。熱は3日目で下がったけれど、体がだるいと言ったら休ませてくれた。 だけれど、もうこれも続かないだろうな。家族にもこれ以上は心配をかけられないから。 月曜日はちゃんと学校へ行こう。学校を休んだ日と土日を合わせて6日。一週間も経っていれば山本だって俺のこと忘れてくれてるはずだ。 忘れてくれればいい。最初から、俺とは友達になんかなってないと思ってくれればいい。 それでいいんだ。それで。ぜんぶ、もとどおりになるから。 そう、やっと心の準備が出来ていたのに。 コンコン、と軽くノックの音がした。それからすぐに部屋の扉が静かに開く。 「・・ツナくん、寝た・・?」 「なに?」 ゆっくり身体を起こすと、そこに双子の姉である京子が立っていた。 「あの、・・山本くんから電話・・」 「え・・・」 双子独特の以心伝心で、お互いの言いたいことがすぐにわかった。 「・・えと、・・・」 「・・ツナくんは、それでいいの?」 「・・・うん・・」 「そっか・・・。わかった・・」 それから部屋の扉が静かに閉まる。静かに階段を下りる音が聞こえた。 どうして。 どうして電話なんか。 なんの用があるんだよ。 もうすっかり薄暗くなってしまった部屋で、ツナはまた布団を被った。 それから数分経って、また静かに階段を上がる音が聞こえた。あの足音は京子ちゃん。 ノックのあと、部屋の扉が静かに開く。 「・・・ツナくん・・?」 ツナは今度は身体を起こすでもなく、無言のまま布団を頭まで被った。 「・・あのね、山本くんが、・・お大事に、って」 「・・・・・・・」 それだけ言ったあと京子は静かにベッドのそばに腰を下ろす。布団の中のツナも、それを雰囲気で察知した。 「・・・・俺、山本にひどいこと言っちゃった」 朝から続く雨の音だけが支配する沈黙の中で、ツナが小さな声を発した。 「・・・・大事な大事な親友だったのに、・・・傷つけた」 「・・・そっか」 京子はツナを責めるでもなく、ただ静かにそう返す。 「・・・・俺、こわいよ」 「・・・・・・・」 「・・・山本に会うのが。・・・大事な友達を失くすのが」 「・・ツナくん・・・」 「・・・・あのときみたいに、・・・大事な大事なともだちがいなくなるのが、・・・・こわい・・・・」 あの頃、何度公園へ行っても、大事な大事なともだちが訪れなかったこと。 どれだけ待っても、大事な大事なともだちは来なかったこと。 あのときと同じ思いをすることが、こわい。 そっとツナの布団に触れると、京子はポンポンと優しく撫でた。 「・・ツナくんは、山本くんのこと、・・・きらい?」 「・・・ううん」 「だったら大丈夫。・・・自分が嫌いだなって思う人には、それが通じちゃって向こうも自分のこと嫌いになっちゃうんだって。それと同じでね、自分が好きだなって思ってる人には、その思いも通じてるはずだから」 つ、とツナの頬を涙が流れた。 「だから、山本くんもツナくんのこと好きだって思ってくれてるよ」 「・・・・っ」 「大丈夫。ツナくんは、・・ひとりぼっちじゃないよ」 「・・・っく、・・・っ」 京子はただ震えるツナの布団を優しく撫でた。ツナが泣き止むまでずっと。 雨は、まだ止まない。 |
京子の言葉で救われたツナ。 |
2007.04.21 |