一年で、たった一日だけ、わずかな時間しか逢えない人。

運命とは、時にざんこくだ。







透明な季節






2月も終わり。世の中は温暖化だとか騒いでいるけれど、今年の冬も変わらず寒い。

その少年は、鼻を赤くして白い息を吐きながら、丘の上の大きな木の上にいた。

俗に言う「冬将軍」と呼ばれる彼は、毎年この時期になると北の方から飛んできて、この場所へ居座る。ここは静かで、街も見渡せるし、彼はこの場所が大好きだった。

もうすぐ冬も終わる。そうすればまた北へ帰る。いつまでもここへはいられない。暖かいところでは生きていけないから。

「はあ・・・」

白い息を吐いて、この時期特有の白い空を見上げたら、びゅう、と強い風が吹いた。

驚いて目をつむったあと、ゆっくり目を開ける。





「お、ツナ発見」





そこには鮮やかな服を着た、まるで自分とは正反対な少年がいた。

「やまもと・・・」

「相変わらず好きなのな、ここ」

笑顔で言う彼もまた、毎年この時期になるとやってくる「春一番」。

「隣、すわってい?」

こくりと頷くと、やまもとはうれしそうにツナの隣に座った。それと同時に、ツナの右側がじんわり暖かくなる。

けれどツナはこの暖かさが好きだった。

「今年は来るの遅かったね」

「そっか?」

「うん。去年はもうちょっと早かったもん」

「ツナが寒くしすぎてたからだ、きっと」

「え、俺のせい!?」

ツナはこの時間が好きだった。出来ることなら、このままずっとこの時間が続けばいいと思っていた。

けれどそれは出来ない。





なぜなら、ツナは冬将軍でやまもとは春一番だから。





「・・・そろそろ行かなきゃな」

腰を上げたやまもとの服の裾をツナは掴んだ。

「・・・もう行くの?」

「・・・俺のこと、待ってる奴らがいるから・・・」

「・・・もうちょっと、いればいーじゃん」

わがままを言ったってそれが叶うことがないことくらいツナだって知っている。

「ツナ・・・」

「・・・ごめん、うそだよ。・・・・ごめんね?」

掴んでいた手を離した。離れたら、また会えるのが一年後になるのだけれど。

「・・・・・・・・・・・」

俯いたツナの唇に、やまもとはそっと触れた。







「・・・来年もまた来るから・・・」







にっこりとやまもとは笑った。

「・・やくそく、だよ・・っ」

「ん。やくそく」

また、びゅう、と強い風が吹いて、やまもとはいなくなった。





一緒にいれないことくらいわかっている。今以上に長くいたら、お互いの存在を消してしまうことも。

けれど一緒にいたい。俺も連れていってほしい。







どうして俺たちだけこんな、







「・・・やまもと、・・・・一緒にいたいよ・・・」





一生叶うことのないツナのお願いは、白い空に吸い込まれて、消えた。







某I屋さんの、冬将軍ツナと春一番山本発言に萌えて書いた、突発SS。
個人的にとても楽しく書かせて頂きました。
初2008.02.26
2008.04.16改
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