野球部の朝練がない日は、大好きなあの子と一緒に通学デート。

俺より頭一つ分小さなあの子は危なっかしい。ほら今日も。







ときには身長差を利用して






「わっ・・、ごめんなさい」

たくさんの人ごみで混雑する駅のホームで、ぶつかってはいちいち謝るツナの姿が見えて、山本はツナの腕を引っ張った。

「ツナ、こっち」

「あ、山本・・。おはよう」

「そんないちいち謝んなくていーんだぞ?」

そんなところも好きだけど。

そう忠告してくれた山本に、ツナは、へら、と笑った。





一般的な高校生男子の平均より少しばかり小さなツナにとっては、この通勤通学ラッシュは山本が経験しているよりずっと大変なもので。

「・・山本、」

「ん?」

「駅に着くまで掴んでていい?」

遠慮がちにツナはそう聞く。いつも山本と一緒に登校するときは必ず聞いてくる。それに対して、いつもいいって言ってやってるのに、いつも同じことを聞いてくる。

「いーよ」

「ごめんね?いっつも」

そうして申し訳なさそうに山本の制服の袖をぎゅっと掴む。

本当は手をつないであげたいんだけれど。ツナは人前でそういうことをするのを嫌うから。

プシューッ、とついさっきホームに滑り込んできた電車の扉が開く。同時に、雪崩のように人が降りていく。

「ツナ、行くぞ?」

「うん」

さっきよりもぎゅっと掴まれたら、いいよの合図。なるべくツナの負担にならないように進む。こういうとき背が高くて良かったなぁと思う。

ようやく乗り込めたと思ったら、今度は奥へと追いやられる。

「ツナ?」

ふと気配がなくなって見ると、いつの間にかツナは人ごみに埋もれていた。

「ツナ」

埋もれたツナの手を取って救出。

「大丈夫か?」

「うん、大丈夫。ありがとう」

ちょうど反対側の扉付近が空いていたので、山本はそこへツナを連れて行った。

「わっ!?」

「おっ!?」

どうやらムリヤリ人が雪崩れ込んで来たらしい、反射的に山本は、扉側にいたツナの顔の横に手をつく。ギリギリのところでツナを潰さずに済んだようだ。

「わり、ツナ。ちょっとの間我慢してな?」

「う、うん」

笛の音が聞こえて扉が閉まり、電車がゆっくり走り出す。



ていうか、近い。



見下ろせばすぐ近くにツナの小さな頭がある。近すぎてちょっと変な汗をかいてきた。

ちらり、ツナの顔を視界に入れれば、ツナはどこに視線を定めればいいのか、少しだけ頬を赤くして視線を泳がせていた。

それを見ていると、少しばかり意地悪をしたくなってしまう。

「ツナって、いー匂いするよなぁ」

「へっ!?」

案の定真っ赤な顔をしたツナが勢いよく顔を上げた。

「いっつも思ってたんだけど、甘いっつーか、・・・うまそーな匂い?」

「んな・・っ!?」

耳まで赤くして口をパクパクさせちゃって、かわいいなぁ。

「ば・・っ、バカじゃないのっ!?」

そんな反応をされると余計に意地悪したくなっちまう。俺って結構意地が悪いというのは、ツナと付き合い始めて知ったこと。

「・・なー、ツナ」

「な、なに?」

真っ赤になった小さな耳に唇を寄せてこっそり。





「キスしてみようか」





「はっ!!?」

「声でけーよ」

思わず素っ頓狂な声を上げたツナに、山本はくすりと笑った。

「だ、だって山本が・・っ!」

「していい?」

「だ、ダメに決まってるだろっ!」

人前で手を繋ぐのも嫌がるツナが、キスなんて許可するわけもなく。

「大丈夫だって、ここ死角だし。それに俺が隠してやっからさ」

「や、やだっ!」

「そっか?残念」

随分あっさりと、山本が諦めたようにそう言うと、ツナはホッと胸を撫で下ろす。その瞬間を山本は見逃さなかった。





「ツナ」





呼ばれて顔を上げたツナにそっと。





「っっ!!!!???」





「やっちゃった」

まるでイタズラをした子どものように山本は笑う。

「・・っ、バカ本!」

ふいっ、とツナは窓の外へ顔を背けた。

あらら。ご機嫌ナナメになっちゃったか。

「ごめんな?」

「知らないっ!」



そのままツナは、駅に着くまで一言も喋ってくれなかった。でも、口を尖らせて顔を赤くしたまま怒っているツナをずっと観察しているのも好きだったので、山本は一切気にしていなかった。ある意味趣味が悪い。

ツナはというと、駅に着くまで一言も山本と口を利かなかったが、いざ駅に着いて電車を降りるとき、乗るときと同じように山本の袖をぎゅっと掴んではぐれないようにするあたり、かわいらしいことこの上ない。このへんも山本のツボである。



「あー、やっぱ一本遅いと疲れんなー」

「じゃあ毎朝一本早いので行けば」

改札を抜けるのと同時に、ツナは掴んでいた手をぱっと離して先にさっさと歩き始めた。まだ機嫌が悪いらしい。

「まだ怒ってんの?ツナ」

「うるさい。話しかけるな」

「ツナー、ごめんって。もうしねーからさ」

「あたりまえだよ!」

「ツナぁー」

俺が朝練がある日はどうしてんだろう、とふと思う。

背の低いツナが、毎朝人ごみに埋もれながら電車に乗っているのを想像するだけでも、かわいそうになってくる。それにツナはかわいーからな、痴漢に遭ってたりしたらいやだ。

「・・・・・・・」

無視ですか。寂しいなぁ。





「・・・朝練やめようかなぁ」





「え?」

やっと振り向いてくれた。

「うん、やめた!」

「な、なんで!?」

「だってさ、ツナが心配だもん」

朝練のときだってホントは気が気じゃないんだ。毎朝ツナの顔を見るまで安心出来ない。

あぁ、俺って結構独占欲とか強いのな。親バカってよく言うけど、たぶん俺はツナバカだ。

「そんなこと・・。山本は心配性すぎるんだよ。もう慣れたから平気だし!だから絶対やめちゃダメだからね!」

言ったあと、山本の手を取った。

「ツナ?」

「ゆ、ゆっとくけど、今日だけだからね!」

そう言って、くるりと背を向けたツナの耳が真っ赤だったから。

「・・おー!」

ぎゅっと手を握り返した。







なにが書きたかったのかさっぱりわかりませんが。
こんなカップルを電車で見つけたら萌えるよね!ってそんな話(ぇ)
2007.05.12
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