10. 眠る 寂しい気持ちを紛らわすように布団を被ったら、山本の匂いがした。それと一緒に数時間前の情事を思い出す。 「・・・や、やまもと・・」 カチカチと時計の針が闇を支配する中、ツナがそうっと声を出した。 「寝た・・?」 「んー、どーした?眠れねぇ?」 「ち、ちがくて・・・」 「うん?」 「・・・・え、っと・・・」 付き合っているんだから甘えればいい。そう山本は言ってくれたんだから。大丈夫、ちょっと言ってみるだけ。 小さく深呼吸をして、ぎゅっと布団を握った。手に汗を掻いているような気がする。 「あ、の・・・、い、いっしょに、寝たい、な、・・とか・・・」 なるべく小さく声を発したつもりだったのに、雨足が弱くなっていたからか夜だからかこの部屋が暗いからか、やけに大きく響いた気がした。 「・・・・・・・・」 「ご、ごめんっ!今のナシ!おやすみなさいっ!」 そうだよ、そうだよね。恋人同士だからって、一緒の布団で寝る人たちばかりじゃないよね。山本はきっと一人で寝たいんだ。 ツナは早口でそう言ったあと、勢いよく布団を被った。 「・・・・言うのおせーよ」 「へ・・?」 そうっ、と顔を覗かせると、山本と目が合った。随分長く暗闇の中にいたので、もうすっかり目が慣れてしまっていたのだ。 「一緒に寝ようとか言ってくれるの期待してたのに、ツナさっさと寝ちまうんだもん。寂しかったぜー?」 「なっ・・!?や、山本が布団で寝るって言ったんじゃんかっ!」 「俺のせいか?」 「そ、そうだよっ!」 言い終わって、これって遠回しに一緒に寝たかったと言ってるみたいだと思った。 「・・って、・・ち、ちが・・っ、」 「まーいーや。ツナが一緒に寝たいって言ってくれたし」 「ちが・・っ、おれ・・っ」 ぎし、という音と一緒に、山本がツナの顔を覗き込んでいた。 「・・や、まも、と・・?」 一瞬息が出来なくなって、そのあと発した声は弱々しく頼りなかった。 「一緒に寝ていいんだろ?」 「・・あ、の・・」 暗闇で見る山本の顔はやっぱりどこか大人びていて。山本は、どきどきと心臓を鳴らすツナがいる布団の中へ入った。 「ツナ、あったけっ」 「っ!?」 布団に入るなり、ぎゅっと抱きついてきた山本に驚いて、ツナは声にならない声をあげる。 「やま・・っ、」 「あー、なんかすっげうれしい」 顔を上げたら、心底うれしそうな顔をして笑う山本と目が合った。 「ありがとな、ツナ」 俺と付き合ってくれて、と笑う山本に、ツナは首を振る。むしろ、付き合ってくれてありがとうと言わなければならないのは自分の方だ。 山本はあんなにモテるのに、自分を選んでくれた。頭はいい方じゃないむしろ悪い方に入るし、運動なんてまるで全然ダメだし、見た目なんて地味すぎるし、性格だってかわいくないと自分でも思う。そんなダメダメな自分なんかを選んでくれた。 それだけでもうれしいのに。 「・・山本、」 「ん?」 「あの、さっき、・・・おなか痛いって・・・」 「まだ痛ぇ?」 「ちが、くて・・、」 「うん?」 「・・せ、せっかく山本がくれたもの、なのに、・・」 もごもごとそう答えたツナに、山本は思わず、ぷっ、と吹き出した。 「いーって。あれは俺が悪かったんだし」 やっぱ男同士でもコンドーム?って必要なのなー、と付け足して、はは、と笑う。 「でも・・、」 「そんなに欲しいんなら、いつでもやるよ」 ツナが慣れるまで、と低い声で囁くので、ツナの心臓はまた大きな音を立てた。 「・・、バカ本っ!」 山本は実は意地が悪いんじゃないのかと思い始めたのは、ほんの数時間前からだ。 「冗談だって」 「・・・・・・・・」 「・・でもさ、俺はもうツナのものだから」 さらり、と前髪に触れた山本に、またどきりと心臓が鳴る。 「ツナは、わがままだってなんでも言っていいんだからな?」 「・・・ぅ、と・・・」 そんなことを言われたのは初めてで、どう答えていいのかわからなかった。うん、と頷いていいのか、でも、と遠慮した方がいいのか。 「すきだよ、ツナ」 ツナが答えを出す前に、山本はそう囁いてオデコにそっとキスを落とした。それはとても優しくて、胸の奥がぎゅうっとなる。 「お、俺も、・・すきだよ、山本のこと・・」 早く答えてしまわないと泣いてしまいそうで、ツナは慌ててそう応える。そんなツナに優しく微笑んで、山本は愛しそうに頭を撫でてくれた。 「おやすみ、ツナ」 「・・おやすみ、なさい・・」 山本の腕の中はあったかくて優しくて、しとしとと降り続いている雨の音が耳に心地良くて、ツナは安心したようにそれからすぐに眠りの世界へワープした。 *END* |
最後まで甘々になっちまいました。 |
2007.06.27 |