大きな水槽に、思いのままに泳ぐたくさんの金魚たち。その中でも一際赤色が綺麗な金魚がいました。 その金魚の名はヤマモトと言って、この水槽の中で一番の人気者でした。 金魚の飼い主もヤマモトのことはお気に入りで、大切に大切に育てていました。 友達はたくさんいるし、飼い主がくれるエサはおいしいし、ヤマモトは毎日幸せでした。 夏に溺れた金魚 そんなある日。 飼い主は今日もたくさんの金魚たちを水槽に放します。その金魚たちも一目でヤマモトのことを気に入りました。 けれどその中で一匹だけ。 それは小さな小さな金魚でした。 「なー、あいつ・・」 ある日ヤマモトはその金魚のことが気になって、近くにいた友達の金魚に聞きました。 「あー、あいつはツナってんだ」 「ツナ?」 「変わってるよな、いっつも一人で」 「すげー小さいけど」 「あいつ鈍くさいからさ、いっつもメシ食べ損ねんの。だから俺らはみんなダメツナって呼んでるぜ」 いつも水槽の隅の方で泳ぐあいつ。 誰とも仲良くしようとしないで、いつも一人でいるあいつ。 エサに群がる奴らに見向きもしないで、ずっと外を眺めているあいつ。 みんなが満腹になった頃、こぼれてくるエサを恐る恐る食べるあいつ。 どうしてあいつはいつも一人でいるんだ・・・? 「なー」 ある日ヤマモトがそう声をかけると、その小さな金魚はびくりと身体を震わせました。近くで見ると、思っていた以上に小さい感じがします。 「俺、ヤマモトって言うんだ」 ツナは一瞬ヤマモトの方を見ましたが、すぐに視線を外していつものように外を眺めました。 「名前、なんてーの?」 「・・・・ツナ」 ぽつり、小さくツナは答えました。 「ツナか」 ツナはヤマモトに目も合わせずずっと外を眺めたままです。 「ツナ、傍にいていいか?」 「・・好きにすれば」 冷たく言い放ったツナの答えに、ヤマモトはうれしそうに笑いました。 それからヤマモトは、ツナの傍にいることが多くなりました。 一日中外を眺めるツナになんの他愛もない話をして、水槽の隅っこで眠るツナの隣で眠って、それから。 「ん、ツナ」 ヤマモトの手にはたくさんのエサ。 「・・・・・・」 「一緒に食おうぜ」 「・・・ヤマモトって変わってるね」 その日初めてツナの方から口を開きました。 「ん?」 「俺、みんなからダメツナって呼ばれてるんだよ」 「知ってる」 「ヤマモト、俺なんかといなくても、他に友達いっぱいいるでしょ?」 「んー・・、どーなんだろーな」 「?」 「あれって友達って言うんかな」 うーん、と唸って、一つエサを口に入れると、そう言って首を捻りました。 「・・ヤマモトの言ってる意味、よくわかんないんだけど・・・」 「俺もよくわかんね」 はは、と笑えば、ツナもつられて笑ってしまいました。その笑顔を見た瞬間、ヤマモトの胸はどきりと大きな音を立てたのでした。 それ以来、ヤマモトとツナは本当の友達のように仲良くなりました。 「ツナ」 ある日ヤマモトは、ずっと気になっていたことをツナに聞いてみることにしました。 「なんでツナ、いっつも外ばっか見てんの?」 いつもいつも。話をする時やエサを食べる時は、ヤマモトの方を見てくれるようになりましたが、ふとした瞬間にツナは外を眺めていました。 「海って知ってる?」 「あぁ、聞いたことはあるけど」 「ここより、俺たちが生まれた川より、何倍も何十倍も広いとこなんだって」 「?うん」 いまいちツナの言わんとしていることが理解出来なかったヤマモトは、?顔をツナに返しました。 「もうすぐ夏だね」 今度は唐突に夏の話題。ますますツナの言っていることがわかりません。 「俺たち、売られちゃうね」 「・・・ツナ?」 「・・海、泳いでみたかったなぁ」 ぽつり、呟いた声はひどく哀しそうでした。 「ツナ・・、」 堪らずヤマモトはツナをぎゅっと抱き締めました。 「ヤマモト・・?」 「それでも、・・今度は一緒に海で泳ごうな」 ヤマモトがそう言うと本当に海で泳げそうな気がしました。 「・・うん」 蝉の鳴き声がうるさい夏の日、大きな水槽の中にはヤマモトの姿もツナの姿もありませんでした。 二匹がいた場所は。 「ツナー、金魚すくいやろうぜ」 「いいけど・・、俺取れないよ?」 「いーよ、俺が取ってやっから」 長方形の浅い水槽の前に二人、並んでしゃがんだ。 「ほら、でかいの取れた」 笑顔で山本は、今すくい上げたばかりの金魚を見せた。 「うわ!すごい!おっきい!」 キラキラと目を輝かせるツナの、山本への尊敬度はますます急上昇だ。 「なんかかっこいいね!この金魚!」 「そか?」 「なんか山本みたい」 ふわり、笑ったツナを見て、そのあと水槽の中を見る。 なにかを見つけたあと。 「んじゃ、もういっちょ」 すい、と慣れた手つきでもう一匹すくい上げた。今度はさっきのに比べて随分と小さい金魚。 「これ、ツナっぽくね?」 「なにそれ、俺が小さいってこと?」 今度は一転して、むぅっと頬を膨らませた。 こういう、コロコロと変わる表情も好きだなぁと思う。 「・・なに笑ってるんだよ」 「ん、別に」 笑みを堪える山本の耳に、打ち上げ花火の音が聞こえた。 「花火始まった。行こうぜ、ツナ」 「え、金魚は?」 「ほれ」 渡されたのは透明な袋に入れられた二匹の金魚。さっきの間にいつ袋に入れてもらったのか。 「でもこれ山本が・・っ」 「ツナのが大事に育ててくれそーだし」 な、と笑いかけられ、ツナは断ることが出来なかった。 「花火、行こーぜ」 山本はツナの手を引いた。 あるところに、二匹のとても仲の良い金魚がいました。 一匹は名をヤマモトと言い、赤色がとても綺麗な金魚で、もう一匹は名をツナと言い、ヤマモトに比べとても小さな金魚でした。 二匹は今、 「また一緒だな」 「そうだね」 ゆらゆら揺れる水の中で、二匹の金魚はうれしそうに笑い合いました。 |
やべ。獣化妄想楽しい。 |
2007.03.10 |