「獄寺はさぁ、ツナでいける?」 「・・・・・・・・・・は?」 山本の唐突な質問に、獄寺は素っ頓狂な返事を返した。 No.2 放課後、2年A組の教室は、ただ今、学年で、いや学校内で1位2位を争う並中のアイドル二人が貸し切っている。正確に言えば、放課後なので、他のクラスメイトたちは部活へ行ったりすでに家路に着いたりしているだけなのだが。 彼らのファンクラブの女の子たちが見れば、なんて夢のような空間なんだと思うだろう。 ちなみに、いつも彼らの間にいる、クラスの小さなダメっ子はただ今教師に呼ばれて職員室に行っている。正直お互い二人きりのシチュエーションなんて勘弁なのだが、その子と一緒に帰りたいのだから仕方がない。 口には出さないが、早く戻ってこないかと心の中でそう思っていた。 そんな嫌な沈黙が教室を支配する中、山本が先程の質問を唐突に投げかけてきた。 「・・・どこに?」 唐突過ぎて意味がわからなかったのか、獄寺はそう答えた。 「どこにって、今さら純情ぶるなよ」 「意味がわかんねーから聞いてんだろーが!」 毎日吸っているニコチンのせいか、彼は人よりちょっと短気である。 「だからさ、ツナをおかずにしてイけますかって」 「な・・っ!!?」 「・・・いいよなぁ、獄寺は。わかりやすくて」 聞くやいなや途端に顔を赤くした獄寺を見て、山本は小さく溜め息をついた。 「てめ、それはけなしてんのか!?」 「褒めてんだよ、いちおう」 普段のあの爽やかさなどどこにもなく、山本は頬杖をついてまた小さく溜め息をついた。 「で、実際イけんの?」 「・・・んなこと聞いてどーするつもりだ」 「別に。ただ聞いてみたかっただけ」 獄寺と、正確にはツナ以外の人間の前だけにしか出さない、彼の裏の顔。山本が本当はそういう男だったということを獄寺が知ったのは、ツナを間に挟んで山本と一緒にいるようになって少し経った頃。 獄寺が、ツナを"そういう"対象で見ているのだと知ってから、彼の目の色は変わった。なのでもうこの顔を見せられても、どうとも思わない。 「・・・人に聞く前に、てめぇはどーなんだよ」 「お、興味ある?」 「ねーよ!」 「即答〜」 はは、と笑うが、それは彼の本当の笑顔じゃない。それも知っているが、本当の笑顔を向けられたところで気持ち悪いだけだ。 「・・まー、ぶっちゃけなー、ツナをおかずにしたことはあるぜ?」 「な・・っ!?」 まさか本当に答えるとは思ってなかったので、獄寺は少々驚いた。 「でもさ、これが全然ダメなのな。やっぱ男だからかなー、ツナが女の子だったらイけるかも。つーか絶対イける」 何度も言うが、彼は並中のアイドルだ。しかしアイドルの前に、彼もれっきとした健康な中学生男子なので、そういうこともするしそういう話だってする。 「あ、今度女装ツナでやってみよーかな」 「10代目をそーゆー道具に・・っ、」 「じゃー獄寺は、夜、ツナが出てきたりしねーの?」 「ぅ・・っ」 出てくるらしい。 山本は、ほらな、と言わんばかりに鼻で笑った。 「別に変なことじゃねーよ。ツナが好きだったら誰でも出てくるって」 ディーノさんとか骸とか?あぁ、なんでツナすきな奴ってこんないっぱいいんだろうな。 そう続けてまた溜め息をついた。 「あー、でもさぁ、男のツナでイけねーってことは、俺まだツナへの愛が足りてねーのかな」 「ああ、足りてねーな」 「てことは獄寺イけんの!?」 マジで!?とうるさく聞いてくる山本に、彼がしまったと舌打ちしてしまったのは言うまでもない。 「あぁ・・、たぶんあれだよな、こーゆーのは実際本物とやってみなきゃダメなんだろうな。俺の場合」 「・・・・・・・は?」 こいつ今、なんて言いやがった? 「だから、ツナとセックスしてぇな、って」 「・・・・・・・」 こいつのこのストレートさが、たまにすごくうらやましい。とは獄寺の心の声である。 ふー、と煙草の煙を吐き出して銜え直すと、いつものあれを取り出す。 「・・・果てろ」 「お、出た。獄寺花火」 まったくそれにも動じない山本がそう言って笑ったのと同時に、つい先程まで、名前が挙がるには嫌過ぎる内容の話に出てきた少年が入って来た。 「んな・・っ!?なにやってんのー!?獄寺くん!」 「!?10代目!」 「お、ツナ。おかえりー」 ツナを見た瞬間、瞳を輝かせる少年と爽やかな笑顔で笑った少年が、先程までの人物と同じだと誰が思うだろう。 「ツナも帰ってきたことだし、帰るか」 「うん。待っててくれてありがとう」 うれしそうに笑ったツナが、この日の夜二人の食卓に上がるのか。 「先にツナとセックスした方が、ツナの右腕な」 「勝手に決めんな!」 「?なんか言った?」 とりあえず、ぼそりと呟いた山本の声と、極力抑えて反論した獄寺の声は、幸いなことにツナには届かなかった。 |
最低だ!こいつら最低だ! |
2007.05.15 |